[2-2] 個人投資家の考える利益

 個人投資家と、ファンドや機関投資家の一番の違いは、各個人のライフステージ、税制優遇、知識の有無、興味により、一概にどの物件が一番利益となるかが 異なる点です。たとえば、高齢の投資家は、キャッシュフローよりも相続税対策を考えるかもしれませんし、若い投資家は、多少のリスクを負ってでも総資産を 大きくすることを考えるかもしれません。住宅ローン控除を取るために自宅を購入したいという人もいると思います。

 様々な個人の思惑があるため、一概にどの物件が個人に適していると言うことはできないのです。個人投資家のパターンと、どんな種類の利益を求めて彼らが行動しているかを分類してみました。

安定資産としての不動産

 年金代わりに不動産収入を得たいご高齢の投資家は、転売することを予定していません。そのため、安定した利回りがどれだけの期間継続するかというのが焦点となります。このような投資家は、不動産の収益を生活費に充てているケースが多く、不動産からの賃料収入が上がらなくなってしまうと生活に影響が出ます。そのため、利回りは極端に高くなくとも、賃貸がすぐに決まる安定収入のある物件、突発的な修繕費用のかからない新しい物件が適していると言えます。

 不動産が安定資産という考えは古いと言われていますが、これには一理あります。専門誌でさえも、東京は世界的にも賃料が安定しており、不況でも住宅系物件の賃料は下がりにくい。と評価しているためです。

 また、一般人が借り入れる場合、一度借り入れた資金は、途中で不動産価格が暴落して 物件価値<借入残高 となってしまった場合でも、毎月きちんと返済している限りロスカットされることがありません。暴落時でも安定した資産となり得るのは、これが理由なのです。

 なお、不動産の短期売買で得た利益には、最高39%という高額な税金が課せられる、国土利用計画法により地価の極端な高騰時には規制をかける、など、不動産の転売で儲けるのは悪という国の方針も安定資産としての保有という考え方を支持しています。

相続対策としての不動産

 高齢の投資家は、収入よりも相続税対策として不動産投資をするケースも多くあります。投資条件は良くないにも関わらず、土地が少なめで物件価格が高い、高級マンションの最上階のような相続税評価の低い物件を選んだり、借入を起こして賃貸マン ションを保有することで相続税評価を下るなど、キャッシュフローよりも相続税評価を低くすることを目的に投資している方もいます。

 証券や現金は原則的に時価で相続税評価額が決まりますが、不動産には特殊な財産評価の方法があり、通常この評価方法は、時価よりも大幅に安い評価となります。さらに不動産には、小規模宅地特例、広大地の評価など相続税特例があります。国の税制的に、不動産資産は相続しやすい資産、すなわち、不動産に対する課税は少ない仕組みになっているのです。

 推測ですが、これらの特例は、主に土地持ちの旧華族・士族、地元の名士と言われる人たちに配慮したものではないかと思われます。このような人々は、不動産は多く持っていますが、現金を持っていない場合が多く、不動産に対する税制特例がなければ、いわゆる名家の財産は相続税としてすべて取られてしまい、その一族は経済的にお家断絶となってしまいます。なお、このような人々は主に自民党の支持基盤となっている人でもあります。

自己資金ゼロでの資産形成

 これは、ここ数年、特に2006年頃に確立された新しいタイプの不動産投資法です。(詳しくは、[7-6] 不動産投資ローン(フルローン)

 実は、年収1,000万くらいのサラリーマンが3億、4億くらいを借り入れて、自己資金なしの100%ローンで利回りの良い物件を買って回しているという人は結構います。若い人で不動産投資をやっている人にはこのタイプが多いです。このような投資家が購入する物件は、融資が出ること、そして税引後のキャッシュフローがポジティブになることが必要条件です。そのため、売却時にいくらで売れるのか、テナント付けの難易度など、一般的に重要な要素と言われる事項についてはあまり精査されずに購入するケースも多く見かけます。

 簡単に言えば、よく書店で売っている『サラリーマンが不動産投資で10億作る!』などの類に書かれている内容を実践している人たち、ということです。大丈夫なのかなあ、と思う人も多い投資法ではあるのですが、意外に行っていることは合理的だったりします。

 最初はスルガ銀行やオリックス銀行から始めて、不動産賃貸業としての体をなしていき、ある程度形になってきたら、地銀、信金、ノンバンクと借入先を買えて何度も借りに行くと5億くらいまでは借りられます。

 実際、税務上の利益もキャッシュフローも出ます。しかし、もともと余裕キャッシュを持っていないので、確定申告の時に利益や固定資産税に対する課税を払いきれなくて困ることが多いようです。また、スルガ銀行の例で言えば、当初金利が変動でも4.5%とかなり高めで、さらに金利が上昇した際には、キャッシュフローは赤字となり、一気に収益が苦しくなります。

 ちょっとバランスを崩すと危ないですが、そのバランスを10年くらいとり続けて1物件だけでもローン完済、もしくは不動産相場が好転し、転売益が確定できれば、あとは家賃収入で悠々自適に生活できるようになります。

 もしくは、購入価格と同価格で売却をした場合でも、下のチャートのように、7年もすれば、残債は80%まで減っています。フルローンで購入して7年間持ちこたえれば、購入価格の20%弱(諸経費を引くため)の現金が手元に残る計算となります。

  実質的なリスクは銀行が取っているので、サブプライムと一緒で、儲かった時は自分の儲け、損したときは銀行の損失。という図式がここでも成り立ちます。リ スクはありますが、いろいろ怪しい投資情報が入り乱れる中にあっては、一考に値する投資方法だと思います。なお、この投資法を実践している人の多くは、か なり精緻にリスク管理の勉強している人が多いように思えます。

 一時期、外資の不動産投資ファンドは借入比率90%というハイレバレッジ で日本国内への不動産投資を積極的に行っていました。借入比率は高ければよいというものではありませんが、投資効率を高めるという点では、非常に有効で す。特に不動産ローンは証券と違ってロスカットされることがないので、なるべく低利で長く借りるというのが、収益力を大きく左右するポイントになってきます。


2013/11/07更新