[9-2] 火災保険と地震保険

火災保険

□火災被害の実際

 保険代理店の人が言うには、30年物件を保有していて火災に見舞われる 確率は概ね2%程度なのだそうです。この確率が本当だとすると年間の火災リスクは0.7%という計算になります。また、総務省消防庁の発表する資料によれ ば、平成22年1年間で発生した火災のうち、建物火災の出火件数は27,137件、うち死亡者1314件(4.8%)となっており、消防が出動する規模の 火災であっても、死者が出たり全焼するほどの大火事に見舞われる確率は4.8%以下という計算が成り立ちます。これは生活実感と照らし合わせても概ね違和 感はない数値だと思います。
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/fieldList8_3.html

 火災の発生確率を保険金額から逆算しても、全焼時に13,900万円の保険金を受け取れる火災保険で6.97万円/年ですので、火災による全損発生オッズは1,994倍となり、発生は低確率であることを示しています。東京は火事が多いというのは江戸時代までの話だと言えるでしょう。

 しかし、全焼確率=仮に火災で死亡する確率とすると、死者数1314人/総人口128,057,352人≒98,000倍となり、一桁違うオッズが算出されます。ほとんど発生し得ない確率であるということです。そう考えると、1/98,000の確率に対して1,994倍しか払い戻していない火災保険は、やはり胴元が抜きすぎなのではないかという計算結果となります。

 もちろん、年齢や地域により発生確率は異なること、火災発生原因のトップが放火である(発生条件に偏りがある)ことを考えると、統計的に正しい推計ではありませんが、ざっくりとした感覚はこのようなイメージです。

 なお、全焼時の払戻金は保険評価額を限度とします。保険評価額の計算は、保険会社が定めた建物の再調達単価を基本に算定し、例えば東京のRCであれば26.3万円/平米×床面積=保険評価額と計算します。

□火災保険のカバー範囲

 さて、このような低確率の火災に対する備えとして、年間6.97万円の出費は妥当なのか?そこで考慮すべきなのが、火災保険は自然災害、盗難、偶然の事故による破損など、火災以外が原因の損害もカバーしているという点です。

□水道管が破裂して水浸しになった

 保険金申請で最も多いのは、水道管が破裂して水浸しになった損害の補償なのだそうです。ただし破損した水道管自体の修復は保険ではカバーされません。水浸しになった床などのリカバリ費用のみです。

□ヤンキーにエントランスのガラスを割られた

 エントランスのガラスドアが割られたなども、まれに発生するようで、このようなケースも保険で全額が支払われます。ただし、スプレーで落書きをされた、傷を付けられたなど破損ではない汚損ダメージはカバーされないことは覚えておく必要があります。

 このような偶発的なトラブルに対して修復費用の全額(ただし免責3~5万円あり)が保障されますので数年に一度でも問題が発生すれば元は取れる計算です。

  感覚的にも漏水を火災保険でカバーしたという話は比較的良く耳にします。また、ネットを検索すると、火災保険でのリフォーム専門などという業者もいくつか あり、被害をゆるく算定して、積極的に保険金を取りに行く商法なのかなとも思いました。このような使い方もあることから、火災よりも偶発的な物損被害に対する保険という側面で評価すべきでしょう。

 結論的には、火災保険は火災以外でも役に立つ。とりあえず加入しておくべき。と言っておきたいと思います。

地震保険


築古のビルに後から耐震補強する場合によく使われるブレース工法

 3.11震災後に注目度が急上昇の地震保険ですが、掛け金と払戻額のオッズを考えると高額すぎて割に合わないのが地震保険というのが私の結論です。地震先進国?の日本製保険としてはデキが悪いと言わざるを得ません。

 なぜ地震保険は割に合わないのか?それは下記の通りです。

□再建築に十分な保険金を受け取ることはできない

 これは、地震保険の歴史と関係しています。地震保険のもともとの始まりは、昭和39年に発生した新潟地震で家を失った人に対して、新潟が選挙地盤である時の大蔵大臣、田中角栄の発案で、当面の生活を建て直すだけの資金を迅速に届けるための保険としてスタートしています。この目的は現在の地震保険でも変わらず、損壊した建物の再調達資金保険ではなく、生活再建のために当面必要になる資金の確保という主旨で地震保険は設計されています。はっきり言って加入者のニーズに合っていません。

□保険料が割高

  具体的には、約7,000万円(火災保険の建物評価額の50%)の評価額の地震保険に加入するには、年間で約10.5万円を支払う必要があります。しか し、地震により被害が出たら、この金額の100%を受け取れるのかと言えば、そうではありません。3.11震災の時ですら、東京近郊では、件数ベースで約 9割が一部損という認定を受け、評価額の5%(この場合で350万円)を受け取るのみでした。これは掛金のわずか35倍というオッズで割高感が強いです。

□判定基準が3段階しかなく中程度の被害に対応しない

 この表を見ての通り、建物の損壊割合が30%までであれば一律で評価額の5%までしか支払いされません。

 

  被害内容にかかわらず一律の支給であることを逆手にとって、3.11震災時には、被害はほとんどないのに保険料を得ていた投資家も多くいました。3.11 震災時は、迅速に保険金を届けることを優先して、約款に定められている本来の評価の方法とは異なる簡易的な被害見積もりを容認したことも影響しているよう です。

 また、ごく希ですが、3.11震災時に浦安市などでは壁の傾きが規定以上(2×4工法なら3%など)あったため、まだ住める家なのにもかかわらず、全損扱いで保険金を全額受け取っていたケースもありました。しかし、一般的な建売住宅の地震保険評価額は750万円程度なので、これを全額受け取ったとしても再建築にはまだ不足です。

 しかし、投資家が本当に心配しているのは、全焼や全壊するレベルの地震ではありません なぜなら、東京都心に建てたRCの物件が倒れるような事態となれば、当該物件を取り巻く外部環境、すなわちライフラインや物流網も大きなダメージを受け、 東京で生活をすることは不可能な被害レベルであるはずです。そうなれば、国の再建策主導で接収、整地して再開発をしてもらう意外に助かりようがありませ ん。

 問題なのは、不動産以外のアセットクラスに投資をしていた投資家は無傷、建築業界は復興再建需要で利益を出している、という状況で 不動産投資家だけが損失を被ってしまう場合です。たとえば、壁面のクラックや若干の傾きなど、修繕費用は膨大にかかるにもかかわらず地震保険の判定では 30%の損失には届かない範囲の被害。このレンジの被害が合理的な価格で保障されるのでなければ、あまり使い勝手は良くありません。

□加入できるのは住居系物件のみ

 事務所や商業のみの物件は地震保険に加入できません。ただし、事務所+住居の混在物件であれば加入することは可能です。

□どの保険会社で加入しても条件は全く同じ

 これは国が仕切っているため自由競争にはなっていないようです。これは次のような制度設計になっているためです。

 地震保険の支払いは、1150億円までは損保会社が負担し、それを超えた金額は国と民間で折半する仕組みのため、国の負担増も避けられない見通しだ。さら に、官民合わせた保険金の支払額が全体で1兆9250億円を超えた場合、超過額の95%分は国が負担することになっている。(2011年3月17日21時 43分 読売新聞)

 なお、平成23年6月現在、国と民間合わせて総額5兆5,000億円の保険金支払いプールがあり、これを超える保 険金支払いが発生する事態が発生した場合、保険金の支払いは比例配分となるとのことです。ちなみに、3.11震災の時に支払われた保険金総額は1.3兆円 程度とのことです。


2013/11/07更新