[9-4] インターネット無料化工事

 モバイル全盛の今となっても、有線インターネットの無料利用は賃貸マンションの条件として根強い人気です。というのも、iPhone3Gなどモバイルを 常日頃から利用して、ほとんどパソコンは使わないという人でも、容量の大きなiPhone向けアプリをダウンロードする際、また就職活動や卒業論文の作成 には、ほとんどパソコンを使わないひとであってもインターネット回線は必須であるためです。

 そして、有線インターネットのコストは概ね月6,000円、WiMAXなどの回線でも3,880円はかかります。そのため、仮に賃料が2,000円程度割高であったとしても、インターネット利用料を差し引いて考えると、月々の支払い額は安価に収まるという計算が働きます。これがインターネット無料化の効果なのです。

どのようにインターネット無料化を実現するのか

 インターネットの無料化にはいくつかの業者があります。東京で有名なのは、レジデンシャルインターネットとギガプライズあたりでしょうか。競合は10社くらいあると言っていました。完全に過当競争の市場です。両社ともに20室ほどのマンションであれば、

初期費用50~70万円(ルーターなどの設備、各部屋までのLAN配線などすべてを含む)

月々のランニング11,500円~16,800円程度(Bフレッツ回線とプロバイダー、入居者サポートのコールセンター含む)

です。自分でルーターとLANケーブルを買って、配線しても良いのですが、それでも初期費用10万円(人件費除く)、月々6,000円程度の回線使用料など原価はかかりますので、不在の入居者宅を何度も訪問する(平均して計4~5回は物件を訪問する必要があるそうです)手間などを考えると、自分でやるよりも業者に委託してしまった方が安いです。

  仕組み的には、業者名義で共有部分にBフレッツを引いて、それをNEC業務用やアライドテレシスのVLAN対応ルーターとハブに接続し、各部屋まではパイ プスペースを使ってカテゴリー5eケーブル(筆者推定)を引き回し、各部屋のコンセントパネルをRJ-45ジャックの付いた物に取り替えるというシンプル なものです。なお、ルーター不具合の際には、業者がリモートで再起動できるような設定をしてあります。

自分でやる場合はどうするのか

 ここから先は、不動産とはあまり関係ないマニアックな話しなので、忙しい人は次のページへ飛んでください。

インターネット無料化で差別化して賃貸を募集したいのに、業者に払うお金がない、古いマンションなので配線が引けずに実現できない!そんな時に良い方法がないかを考えてみました。既設のアンテナ線にデータを通して、工事ナシで無料インターネットを賃借人に提供する技です。ほんとはこれはみんなには教えたくないのですが、一応、不動産書籍の著者だし公開することにしました。

□技術解説

  まず、アンテナ線にインターネットを通すことをEthernet Over Coax(ial)と言います。電話線にインターネットを通すことをVDSLと言いますが、それのアンテナ線バージョンと思えば良いでしょう。これに対応した機械を買ってきてつなげばOKというシンプルな話しなのですが、これを日本の集合住宅でやるには、多少(物理学部の学部生程度)電波系の知識がないと トラブル対処ができません。

Ethernet Over Coax製品にはいくつか規格があって、現在メジャーなのは、Multimedia over Coax Alliance (MoCA)という規格です。MoCAでは1100MHz~1500MHz程度の帯域の中から50MHz程度を占有(帯域は選べる)して通信を行います。 ここで問題になるのが地デジ周波数との競合です。地デジは470MHz~770MHzを使っているので、ぶつからなくてOKだ!と思いきや、BSデジタル なる、一度も見たことのないチャンネルが1049.48~1471.44までを占有しており、もろかぶりです。

しかし、ここであきらめず、我が家のアンテナ線をスペアナに通した波形を見てください。なぜ自宅にスペアナがあるのかというのはおいといて・・・。

BS23ch(BS 釣りビジョン 255 : BS日本映画専門チャンネルほか)より上部は、ぽっかり空いています。MoCA機器の設定で使用帯域を1500MHz帯に設定すれば、ここに無理矢理通すことはできないのでしょうか?(なお、右側にまた山ができているのは、スカパー光)と思って、つなげて見たところ、リンクが確立できず!

これはおそらく、図1(Center=1.5GHz Span=49.9MHz)のように、帯域の1/3ほどが、一度も試聴したことのないBSデジタルにより占有されてしまっているためだと思われます。こ りゃだめか。と思いながら調べたところ出てきたのが、12-28MHz帯を利用するHomePNA v3.1 spectral mode Bという規格です。

  日本では図3(Center=36.4MHz Span=81MHz)のように、この近辺は全く使われていません。つまりは、ここにデータを通せば良いのでは、という方法です。早速、対応機器を買ってきてテストしたところ、問題なくネットに接続できて、同時に地デジも試聴できて(つまりデータとテレビは干渉していない)大成功でした。

  なお、この帯域は「ゆうせん放送」の音楽チャンネルなどを導入していると占有されています。この帯域が占有済みであれば、BSデジタルが導入されていない ことを確認して1.5GHz帯対応製品を使ってください。少ないとは思いますが、ゆうせん放送の音楽チャンネルとBSデジタル両方を導入している場合は、 アンテナ線インターネットをあきらめざるを得ません。

□実際にやるとなると結構大変

 さて、この機器はど こに売っているのか?実は日本では売っていないか、売っていたとしても非常に高価でコストが合いません。海外からの輸入が必要となります。また、安定した ネット環境の提供には、自宅サーバーを落とさずに運用できる程度のPC知識が必要です。なぜなら、これらのデータは暗号化されずにマンション内全員に見られてしまうことになるので、暗号化の設定が必要であるためです。暗号化をするには、各部屋と共有部分にPPTP対応ルーターを設置するのが現実的だと思います。このような複雑な事情もあり、万人にはお勧めしません。

 なお、総務省に聞いたところ、この用途では輸入モデムであっても技適マークは必要ないとのことです。ただし、業として行うには第二種電気通信事業者の認可が必要という人もいました。

 1部屋あたりのコストはEthernet Over Coaxのモデム+PPTPルーターを合わせても1万円程度、Bフレッツ費用などが月額6,000円程度なので、10室以下のアパートに自分で安価に導入したいという場合に向いていると思います。HomePNAの規格でも親機1台につき、ぶらさげられるのは10台程度までです。通信方式はFDMAなので10人同時に使っても速度低下は起きないはずです。機器は設定済みのものを各部屋に宅急便で送付すればOKなので、共有部分以外は工事が不要というところは良い点です。

 しかし、前述の通り、規模が大きくなってきたら業者に委託した方が面倒がなくてよろしいかと思います。この説明を理解してテストするだけでも時間もお金もかかります。


2013/11/07更新