[A3-2012] マレーシア (ジョホールバルのイスカンダル計画と不動産)

2014/04/23更新

訪問日:2012年11月

マレーシアはどんな国?

 

「Malaysia Truly Asia」というコマーシャルや今回のレポートのメインテーマであるジョホールバル(通称JB: Johor Bahru)開発により、日本でも最近注目度の高いマレーシア。一体どんな国なのでしょうか。まずは国の概況から見てみましょう。

シンガポールの北側にある国

首都であるクアラルンプール(通称KL)は、シンガポールから、バスで4時間、電車で7時間、飛行機で30分という場所に位置しています。ジョホールバルはシンガポールの北端(Woodlands)の川を橋(Johor Causeway)で渡ってすぐの隣町です。このシンガポール隣接という地理的条件は、今回のジョホールバル開発では大きなポイントとなっています。

様々な人種が入り交じるイスラム教の国

本稿では経済と不動産以外の分野は深追いしませんが、マレーシアには原住民であるマレー人をはじめ、中華系、インド系など様々な人種が混在しており人種間で衝突することもあります。この人種の衝突に端を発したブミプトラ(bumiputera)と呼ばれる経済政策では、マレー人による経済支配率を30%まで高めることに重点が置かれていました。今でもマレー人は新築コンドミニアムを15%引きで購入できるなど優遇されており、マレーシア特有の珍しい制度と言えます。首都クアラルンプールと外資系の工業団地があるセランゴールでは平均所得は月額5,000RM(15万円)、ジョホールバルは3,000RM(9万円)です。

マレーシアの産業

マレーシアの貿易収支は基本的に黒字を維持しており、日本と違って借金で首が回らないわけではありません。マレーシア株式会社はどのように利益を上げているのでしょうか。マレーシアの工業化の歴史と過去の経済政策の成果を知ることは、現在のイスカンダルプロジェクトの先行きを占う重要な先行指標となります。

農産物の輸出から自動車産業と工業団地の育成へシフト

マレーシアでは、パーム油などの農産品に原油(ペトロナス社)やスズなどの鉱物品を合わせた一次産品が1981年頃までは輸出額の70%程度を占めており、かつては大地の恵みを輸出するだけの国でした。

樹木が整然とした配列で茂っているのは、プランテーションで人工的に植えた商業栽培のため

その後、1971年に制定された新経済政策(NEP: New Economic Policy)により、ブミプトラと呼ばれるマレー人への優遇策と工業化が始まり、外資に対して自由貿易エリアを設定して、工業団地(セランゴール州→クアラルンプールにも港と空港にも近いエリア)の場所貸しをはじめました。その結果、現在では白物家電、ハードディスク、半導体の組立工程など、いわばハイテク産業の中の労働集約型ローテクビジネスと言えるような工場が多く進出しています。

この工業団地への誘致政策の中でマレーシアが提供したのは、場所と安価な労働力、そして原料輸入に係わる関税と法人税の優遇でした。そのため、工業団地エリアは局地的に活況となりましたが、工業団地の中で部品調達、加工、出荷が完結してしまい、地域外への経済波及効果は少ない結果となりました。シンガポールのように外資を誘致して、外資の経済活動により国全体の経済を活性化させるには至らなかったようです。

そこで、マレーシア政府は、多くの地元中小企業の協力なしには産業が成り立たない自動車メーカー(プロトン社)を国策として立ち上げ、国内産業全体の活性化を考えました。これは、日本の自動車メーカーの産業構造を習ったと言われています。プロトン社、後に作られたプロドゥア社は、一時60%以上の国内シェアを確保するなど一定の存在感を示しています。

知識集約産業の確立と様々な試み

その後の1991年、新経済政策は国家開発政策(NDP: National Development Policy)と名前を変えました。マレー人優遇の政策は残しつつも、ITなどの知識集約の高度産業と自由経済化を推進して国全体の経済力を高める方向で舵を取り始めました。

そこで作られたのが、1996年のマルチメディア・スーパー・コリドー(MSC)構想1996年と言えばIT革命と呼ばれた時期の前夜です。この構想ではセランゴール州にサイバージャヤと呼ばれるIT産業のグローバル・ハブ(!)を目指した未来都市を立ち上げました。プロジェクトの名称からも、流行に乗った感が伝わってきますね。

なお、サイバージャヤは当初はハイテク産業のハブを目指して作られましたが、最近では、プトラジャヤ市役所や国の機関なども入居するようになり、当初の計画であったマレーシアのシリコンバレーには、なり損ねた感があります。また、サイバージャヤは夜になると仕事をしている人も帰ってしまい、遊ぶ店も何もなく閑散としてしまう。鉄道の駅がない。など生活のしにくさも問題点として指摘されています。(Cyberjaya Wikipedia, the free encyclopedia)

実際、筆者は長年IT業界に関与していますが、マレーシアのIT産業は、それほど存在感がなく、デルのPCを注文したらマレーシアから送られてきた。初代ペンティアムCPUにマレーシア産という刻印が押されていた。くらいしか記憶にありません。

市役所食堂のマレー料理

マレーシアの産業と経済政策の問題点

マレーシアの産業と経済政策については「マレーシアの投資環境」2009年6月 株式会社日本政策金融公庫 国際協力銀行 中堅・中小企業支援室という資料が、税金払っていて良かった!と思えるくらい非常に良くできており、大いに参考にさせて頂きました。しかし、作られたのが多少古いこと、彼らは仕事柄、批判的なぶっちゃけ論は書きにくいという事情もあると思われるので、私なりの見方をまとめました。

風呂敷の広げ方は大きいが個別政策にキレがない

マレーシアの経済政策は、日本と違って数十年単位の長期スパンテーマ設定がはっきりしている。マハティール首相のようにイニシアチブの強い人物が22年もの長期にわたって政権を握っていた。という良い点もありますが、

一方で、すぐに大型のハコ物、つまりは建物や道路などハードウェアを作る点、「IT産業のグローバル・ハブを目指す」など流行に乗って抽象的なフォーカスで中身のコンテンツは民間に任せるという方向性(一方で、シンガポールは金融全域をカバーしようとしているわけではなく、プライベートバンクなど分野を絞って、匿名会社の認可など玄人向けに様々な高度なストラクチャーを提供しているところがウケているわけですが)

マレーシアでは外資誘致のための優遇策が10年間の免税など、素人でも思いつくようなアドバンテージしかない点など、経済政策の設計者がその分野にホントに詳しいのか若干あやしい感じが伝わってきます。

マレーシアの経済政策は、風呂敷の広げ方は大きいのですが、その計画の甘さに起因して、当初の期待通りの成果は得られていないのが過去の実績と言えるでしょう。また、プトラジャヤに建設が予定されていたモノレールが費用面の問題で計画中止となるなど、公式発表が出た後に中止になるプロジェクトも存在していることを念頭に置いて、彼らの未来予想図を聞かなければなりません。

マレーシア産業政策の経緯とその成果を振り返ることが、イスカンダル計画の着地点を占う重要な要素という意味合いはご理解頂けたかと思います。

工業団地には旧世代の斜陽産業が多い

最近のマレーシアの工業団地に入っている企業を見ると、非常にシェアの大きいのがソニー。1社でマレーシアの輸出額の数パーセントを占めると言われてい ます。ここまでは良いのですが、他は、ルネサステクノロジ、スパンション(NOR型フラッシュメモリ)、ウエスタンデジタルとシーゲート(ハードディス ク)、デルなど、はっきり言って儲かっていない、もしくは、ハイテク産業の中でも落ち目な技術を取り扱っている会社が多いのが気になります。インテルもマレーシアに工場を持っていますが、90年代に建設された組立工程の工場のみで、先端プロセスによる回路製造は米国内で行っています。(インテルの製造拠点一覧)

「マレーシアの投資環境」2009年6月 株式会社日本政策金融公庫より

また、キヤノンなども製造拠点を置いていますが、マレーシアは近隣のインド・ベトナムと比べて賃金が高いために、それらの安価な国との生産拠点争いになっているのが場所貸しのみを提供している工業団地政策のつらいところです。近年ではより賃金の安いベトナムへ移行の流れもある様子です。

このような事情のため、マレーシア貿易収支の黒字は、確実に大きな利益の出る天然資源の輸出と、マレーシア経済にとっては薄利な外資系工業団地から成り立っていると考えられます。

国内にまともな企業が育っていない

タイ、フィリピン、インドネシアには巨大な民間企業、財閥が存在していますが、マレーシアにはそうした大規模な民間企業が育っていません。政府がマレー 人(ブミプトラ)企業の育成に力を入れていたために、中華系に比べて商売のうまくないマレー人が大企業を経営するには至っていないという事情もあるそうで す。

ペトロナスをはじめ、運輸、通信、タバコ、電力、銀行(Maybank, CIMB, RHB Capital)などはマレーシア純正の民間企業として存在していますが、このような公共セクターは、日本のNTTなどと同じで対外競争力がなくても人口さえ多ければ、大型企業になるのは当然なので、マレーシアには自動車製造のプロトン、プロドゥアを除けば、国際競争力のある純粋な民間企業はマレーシアにはほとんど育たなかったと言えます。

 

首都クアラルンプールのペトロナス・ツインタワー

マレーシアの税制

これは、工業団地に入居する外資系製造業に対する税率なので個人投資家からすれば参考程度の情報です。基本的に法人税は25%ですが、生産日から5年間は法定所得の70%が免税、重要プロジェクトは10年間100%免税、居住者たる個人については、累進課税制度で最高税率は28%です。

キャピタルゲイン課税

不動産譲渡益課税は、国際協力銀行の資料によれば2007年4月1日より不動産譲渡益税は撤廃された。とありましたが、現地の不動産デベロッパーへの取材によれば、2012年11月現在の税率は次の通りです。

不動産譲渡益課税率

保有期間1-2年  譲渡益の15%
保有期間3-5年  譲渡益の20%
6年以上保有 譲渡益税なし

不動産購入時にかかる諸費用

印紙税(Stamp Duty)

100K RMまでの部分について  1% 
101K ~ 500K RMまでの部分について 2%
500K RMを超える部分について 3%

弁護士費用(Legal Fee)

150K RMまでの部分について  1% 
それを超える部分について 0.7%

外国人に対するジョホール州税(State Levy)

一律10,560 RM (≒29万円)

なお、このあたりの情報はすべての投資家が事前に知りたい情報だと思うのですが、だいたいどこの国に行っても、これらの税務、諸費用などの一覧表をくれる国は皆無です。聞き込みで調べるしかありません。日本なら言えばすぐ出てきそうな話なのですけどね。

ジョホールバル・イスカンダルプロジェクトの全容

さて、前置きが長くなりましたが、ついに今回の本題、イスカンダルプロジェクトです。このプロジェクトの全容を知るには、この公式資料が分かりやすいです。

当資料によれば、イスカンダルプロジェクトをひとことで言えば、クリエイティブと教育を中心として、マレーシア政府が国策として行っている未来都市プロジェクトとまとめられると思います。この計画が実現すれば、マレーシアは今とは全く異なるアジアでもトップクラスの先進国になれるでしょう。そのくらい壮大で投資家を魅了するに十分な計画であることは間違いありません。

ドバイかよっ!と思わせる壮大な開発計画の青写真

5つの開発ゾーン

ジョホールバルのイスカンダルプロジェクトは、5つにゾーン分けがなされており、それぞれテーマを持って作られています。個別のゾーンを見てみましょう。

【ゾーンA [JOHOR BAHRU CITY CENTRE] ジョホールバル駅周辺と中心部】

完成予定の街並み。これが実現すればスゴイです。現場は、まだ完成予想の青写真とはほど遠い初期段階のようですが、ジョホールバル駅周辺のビジネス街(CBD: Central Business District )の再開発、ダンガベイ(Danga Bay)ウォーターフロントシティを開発する計画です。展示場、シンガポールへのゲートウェイ(2018年に高速鉄道が開業予定、バス、自動車はすでに通行開始)はすでに営業を開始しています。Bukit Indahというエリアには、すでに膨大な数の戸建てコミュニティと日本のイオンなどのスーパーマーケットが完成しています。

 

現在のジョホールバルCBD地区の様子。まだまだ発展途上国の香りが漂う街並みです。

イスカンダルプロジェクトに合わせて、大がかりな幹線道路が新たに整備されました。空港と街を結ぶ既設の道路も幅員拡張されたとのこと。

ホテルは地域で最高値のThistleでも1泊100米ドル以下。欧米の数百ドルクラスの高級ホテルに比べると高級感は少なめですが、衛生的で必要十分です。ジョホールバルにはまだホテルの数は多くありません。Thistle ホテルは2009年開業ですが、その前は同じ建物でヒルトンが運営していたそうです。このホテルとジョホールバルのCBDでは日本のWiMAXがローミングで使えて感動しましたが、CBDの事務所ビルを改装したと思われる安ホテルではお湯が出ませんでした。

 

ジョホールバル・セントラル(JBセントラル)は人が多いです。駅ビルのフードコートにも人がたくさんいて経済は潤っている様子がうかがえます。ここからシンガポール行きのバスが出ています。電車(MRT)も出ていますが本数は少ないです。逆に、このエリア以外はまだ開発前の段階で、Medini地区などにはほとんど人がいません。

 

Bukit Indahというエリア。コピペのような戸建てが大量に並んでいます。戸建てといっても隣戸とは壁がつながっており低層マンションのような感覚。近隣にはイオン(日本)などの大型スーパーも出店しており、公園もあるので住環境は良さそうです。この南側にはHorizon Hillsというゴルフ場併設型の住居コミュニティもあり、ほとんど完成しているようです。

 

KSLと呼ばれるショッピングモールにはホテルが既に開業していました。さらに、この上にコンドミニアムが建設途中。この地域は周辺一帯を開発しているわけではなく、さびれたエリアに突如として巨大なモールができたような造りをしています。クアラルンプールでも同じ印象を受けましたが、マレーシアでは街を作るときに、あまり密集させずに、車で20~30分など、かなり距離を空けて作っていくのだなあと思いました。六本木ヒルズやミッドタウンのように、もう少しまとめて作った方が地域一帯として利便性が高いのではないかと思います。

【ゾーンB [NUSAJAYA] イスカンダルプロジェクトの心臓部】

このゾーンには、コタ・イスカンダル(Kota Iskandar)と呼ばれる行政機関エリアが作られており、建物は既に9割方完成しています。それに隣接してPuteri Harbourというハーバー、トレーダーズホテル(シャングリラ系)、ハローキティーランドができる予定です。

またMedini地区には、数多くの高層コンドミニアムをはじめ、レゴランド、Mediniモールなどのエンターテイメント施設、EduCityという学術機関のコンプレックスと Afiatヘルスパークという40代以上の中層階級以上を対象にした健康増進施設、さらにパインウッドスタジオという映画制作関連の施設ができる予定です。何もない原野にこれだけの大規模開発はスゴイ!

 

コタ・イスカンダルにあるジョホール州と政府の新庁舎。マレーシア風のデザインでまだ工事中ですが、建物はほとんど完成しています。そこから見えるモダ ンな建物は、現地人の案内によればシャングリラホテルとハローキティのテーマパーク(写真右)とのこと。また、船でシンガポールから入国する人のための入国審査オフィスもあります。

□注目のメディーニ(Medini)地区 エンターテイメントと教育の街

基本的に、現在のMediniエリアには何もありません。まったくの原野から未来都市を造り上げる夢のような構想です。

 

最近オープンしたレゴランドにはMedinaモールが併設されていますが、驚くほど人がいません。現地人によれば平日だから。とのことですが、世界中のショッピングモールの中で最も閑散としていたと思います。店員さんも携帯端末で本を読んでいるほど暇で、店も閉じている区画がいくつもありました。

 

それにもかかわらず、このモールは段階的に拡張されるとの計画に驚きました。この利用率ではこの拡張計画は実現しないでしょう。

 

レゴランドも駐車場は広大ですが、駐車している車はありません。エントランスにも中にも人は数えるほどしかいませんでした。

さらに2014年開業でレゴランド隣接のテーマパークホテルを建設中。

JBセントラルもMedinaモールも売られている商品は庶民的な価格帯のアイテムが多く、外国人富裕層はさほど意識されていないようです。ここには、 シャネル、ブルガリなどの高級ブランド店は入っていません。ドバイのようにハイエンドの高級、高額品を集めて人々を魅了するというラインナップではなく、 ここは地に足が着いている部分なのですが・・。

この地域は、今後2~3年で、病院や学校の建設が完了する仕掛かり中のエリアであることは間違いないのですが、現況でここまで閑散としていると、この先盛り返せるイメージが浮かびません。

 

また、このエリアにはEdu Cityという、インターナショナルスクールを集積させたエリアがあり、知識集約を目指すイスカンダルプロジェクトの目玉のひとつとなっています。まだ完成しておらず密度は低いようですが、現況の雇用者数統計で教育系が圧倒的に多いことを見るには、すでに運営は開始されていると思われます。学生寮、スポーツ施設なども、この地区に集積される予定となっています。

【シンガポール政府がイスカンダルプロジェクトに投資する裏事情】

 Medini地区では、マレーシア政府とシンガポールのテマセクが50%ずつ出資する会社により、健康に焦点を当てた施設の運営も計画されており、今まで仲の悪かったマレーシア・シンガポール両国政府の初の共同プロジェクトとして注目されています。しかし、この裏には、シンガポール国内に敷設されているマレー鉄道の土地返還という両国で20年間にわたって争っていた問題の解決とセットで決定されたという事情があり、土地不足に悩んでいるシンガポールにとっては、投資は土地返還のための「お土産」だった可能性もあります。

 マレー鉄道のシンガポール駅(タンジョン・パガー駅)は、なぜ近代的なシンガポールの中心部にして、この前近代的な駅舎?という雰囲気のものだっただけに、シンガポールとしては整理したかった案件なのは間違いありません。なお、マレーシアから返還を受けた駅の跡地は、マレーシア・シンガポールが共同で複 合商業施設を建設することになっています。

 このような背景があるため「シンガポール政府も出資するイスカンダルプロジェクト!」という宣伝文句を真に受けるわけにはいきません。シンガポール政府がイスカンダルプロジェクトに積極的に投資を行っているとは限らないことに注意する必要があります。

マレー鉄道の敷地めぐる隣国との懸案が決着
http://www.asiax.biz/news/2010/09/22-070156.php

【ゾーンC [WESTERN GATE DEVELO PMENT] 港湾と発電所とラムサール条約の森】

ここは、完全に産業エリアのようで、見どころはないようです。Tanjung Pelepasという埠頭、Tanjung Binという700MW×3基 = 2,100MW級の火力発電所があります。ラムサール条約で保護された森と貯水池もあります。さらに、セカンド・リンクと呼ばれるシンガポールへ渡る橋も1998年より運用しています。中規模な住居の建設も予定されています。イスカンダルプロジェクトの西端です。

【ゾーンD [EASTERN GATE DEVELO PMENT] 港湾と重工業地帯】

 こちらも、公式資料によれば、港湾開発、重工業と物流の工業団地、電機、電子、化学、油脂化学、食品、倉庫、また世界最大のパーム油の精製施設が作られるとのことです。

【ゾーンE [SENAI-SKUDAI] 空港の再開発と空港周辺施設】

Senai空港の国際空港化が進行しているようです。この周辺施設としてSenai Hi-Tech Parkと呼ばれる外資系企業をターゲットにしたR&D拠点、ナノテクセンターなど知識集約型産業の研究施設がSenai地区で予定されています。また、MSC Cyberport Cityと呼ばれる、マルチメディアコンテンツ、ビジネスプロセスアウトソーシング(情報処理受託)、データセンター、ソフトウェア開発などに的を絞ったエリアも準備されています。

しかし、公式資料によれば、いずれも建物の青写真と何エーカーの広さというハコ物のスペックしか提示されていない点は気になります。デジタル産業で重要なのはハコ物ではなく、どのような振興策、インフラ、コミュニティが存在するかという点ですので、そこが魅力的な設計となっているのかは未知数です。

さらにJohor Premium Outletsというお買い物センターも作られるとのことです。アウトレットモールは空港近隣でよく見かける施設であると同時に、サイバージャヤに研究施設のみしかなく面白いアトラクションが周囲なかったことが居住性低下につながったことを反省したのかもしれません。

ジョホールバル・イスカンダルプロジェクトの不動産

さて、手持ち200万円から買えるジョホールバルの不動産事情はどうなのでしょうか。いくつかの基幹プロジェクトをチェックしてきました。

1Medini(ワン・メディーニ)

 

1Mediniというコンドミニアムの販売オフィス。建設現場はすぐ隣で、大型のクレーンが何本か立っています。中は見えないのですが、工事関係車両の往来はそれほど多くなく、あまり急いで工事が進められている気配ではありません。建設現場はシンガポールのCBD(カジノホテルや金融街)まで車で1時間以内の距離にありシンガポールまで通勤可能です。

 

物件の販売状況は好調。需要は非常に旺盛で、この通り、ほとんどの物件が売り切れていました。レゴランドが9月にオープンしてから急激に販売数が伸びたとのこと。確かに、この地域は本当に何もないので、レゴランドすらなければ、青写真のような近代的な街並みがこの地に建設されることは簡単には想像できないでしょう。レゴランドがあっても、まだ不安なくらいです。

 
・2ベッドルーム+2バスルーム 94.6平米 510K RM = 1377万円 平米14.5万円
・1ベッドルーム+1バスルーム 66.8平米 373K RM = 1007万円 平米15.0万円

これはRCのマンションが平米15万で作れるんだ!?というレベルの価格ですね。確かに広さの割には安いかもしれません。東京都心の同クラスマンションなら平米60~80万円は下らないでしょう。

なお、1Mediniは、いわゆるフリーホールドの物件で、外国人投資家に対する土地保有規制の対象外です。そのため、ブミプトラに対する価格優遇もありません。1Mediniはツインタワー構成で、タワーAは、ほぼ完売。購入者の内訳はシンガポール人と日本人で約60%、残40%がマレーシア人で、中国人、韓国人はほとんど来ないとのことです。日本には販売代理店がいくつもあるため、販売代理店の広告がこのプロジェクトを有名にしている様子です。

高級物件の割にはマレーシア人の比率が多いなと感じましたが、クアラルンプールよりも所得水準が低く月給9万円が平均のジョホールバルにおいても、平均を超える人たちであれば給料10年分という水準なので、現地人にも手の届く価格なのだと思われます。しかし、営業の人は正直で、クアラルンプールは物件価格が上がるが、ジョホールバルは価格が上昇するのが遅いと言っていました。

なお、フリーホールドではない一般的な物件は、購入者のブミプトラ(マレー人)比率を50%以上に保たなければならないという規制や、ブミプトラは15%の割引を受けられる措置があったりします。

TROPEZ RESIDENCES (Tropicana Danga Bay)

 

こちらは、Danga Bayのウォーターフロント計画の中に位置する物件です。1Medinaよりも、こちらの方が場所は良さそうで、平米単価も高いです。

・3ベッドルーム 150.0平米 1048K RM = 2832万円 平米18.8万円
・ワンルーム(参考価格)43.0平米 316K RM = 853万円 平米19.8万円
※当物件ではブミプトラの規制により外国人は500K RM以下の部屋を購入できません。

気になるのは、現場周辺は見渡す限り更地で、まだ何も始まっていないところですが、さすがに湾岸エリアの基幹プロジェクトが頓挫することはないだろうと 信じたいですね。どうせ買うなら、一番良いエリアを買った方が良いと思いますので、1Mediniよりはこちらの方が面白そうです(ただし、こちらはブミ プトラ価格のマレー人と比べて15%以上、高い値段で買うことになります)

しかし、地域一帯の開発が完成するのはいつ頃になるのか不明確で、今のところMedini地区には病院や学校も十分に整備されていません。今後、2-3年で基本施設の一通りが完成するとのことですが、イスカンダルプロジェクトは2025年までを視野に入れて計画しているようですので、あまり進行が遅れて、周囲には何もないのに当物件だけドーンと出来上がってしまうと、住環境が未整備のまま無駄に築年数だけが経過してしまう心配があります。マレーシア(に限らずアジア全域)の建造物は日本のそれよりも経年劣化が激しい点にも注意する必要があります。

なお、デベロッパーによっては、建設途中で資金繰りが滞り物件が完成しないリスクもあるので気をつけた方が良いと現地デベロッパーの人が言っていました。

外国人でも借入可能な金融機関

1Mediniの営業担当によれば、融資条件はスタンダードチャータード銀行他で自己資金3割、500K RM以上の借入なら金利4.2%、同350K RM以上で4.4%、購入者が70歳になるまでか35年間の短い方を借入期間とします。

しかし、PRと呼ばれる居住権を先に取得することにより、自己資金10%で購入する方法もあるようです。実際、多くの日本人、おそらく日本の販売代理店経由の客もそのような自己資金比率で購入しているはずとのことです。

ここが変だよ!イスカンダルプロジェクト!?

さて、あまりに壮大な計画に驚かされるイスカンダルプロジェクトですが、よくよく中身を調べてみると、計画の信憑性があやしい部分もいくつか発見できましたので、それも指摘したいと思います。

□計画している数値に整合性がない

 

まだ完成していないパインウッドスタジオを当て込んで、現在はゼロのクリエイティブ産業従事者を1.8万人にまで増やすと計画しています。ハリウッドのマレーシア版が実現すればともかくですが、仮に計画通りに事が運んだとしても、この産業分野で1.8万人を雇用するというのは非現実的なのではないかと思います。日本のオールインワン広域放送局であるNHKですら職員数は10,500人です。

さらに、2025年までに人口を300万人にまで増やす計画としていますが、2015年時点で5.5万人分の仕事しか用意されていないところに300万人が居住する予定というのは、どうがんばっても計算が合いません。

□クアラルンプールとは経済的に切り離されておりシンガポールと外資頼み

 ジョホールバルのコンドミニアムの購入者の多くはシンガポール人です。シンガポールの中心部が高くて買えないので、数分の1の価格で物件を選べるジョホールバルに流れ込んできているようです。 そのため、必ずしもジョホールバルの大規模開発の手腕に期待して物件を買っているわけではないかもしれません。むしろ、一部のシンガポール人が安価な住居を確保するためにジョホールバルに流れてきているという事情がある様子です。

それでは、中国バブルが思ったよりも大きくはじけて、シンガポールまで飛び火した場合はどうなるのでしょうか。ジョホールバルのシンガポール人や外資が物価高騰の沈静化したシンガポールに逆流をはじめてもおかしくはないでしょう。そうなれば、概ね居住比率で50%のマレーシア人が、この大規模なプロジェクトを支える労働者、消費者とならなければ計算が合わず、歯車が狂えば閑古鳥が鳴くことも構造的に予測できます。これは、クアラルンプールとは地理的に遠すぎて人の往来は多くなく、経済的には切り離されているため、ジョホールバル地域のみで経済的に自立する必要があるためです。

なお、現在、シンガポール政府は住宅購入の際の自己資金を4割(?)まで増やして住宅価格の高騰を抑制するなどの政策をとっており、国が経済に対する影響力を非常に強く保っているシンガポールにおいては、国策として不動産市場に冷や水をかけている状況では、価格は将来的に落ち着かざるを得ないだろうと考えられます。

□シンガポールに近くて場所が良いという発想はおかしい

 ジョホールバル不動産の日本販売代理店では、急成長のシンガポールからすぐの場所というような宣伝をしているようですが、シンガポールの良いところは、立地でも何でもなく制度や政治などのソフト面です。仮に立派な施設がジョホールバルにできたとしても、シンガポールと同じクオリティで運用されるわけではないことを念頭に置く必要があります。

たとえば、シンガポールでは、ガソリンが4/3以上入っていないとマレーシアに出国できない(マレーシアの安価なガソリンを給させることを防ぐため)と いう規則があるように、細かいところまで最適化され政府にコントロールされています。一方で、マレーシアでは雨が降ると洪水で陸路に遅れが出るような状況 で、橋を渡っただけで状況は全く異なります。

□景気が良い頃に計画した強気な設計

 イスカンダルプロジェクトは世界が好景気に沸く2006年に計画されました。好景気の際に作成したイケイケな青写真がその後の計画の基礎となっているのではないでしょうか。

マレーシアでは以前の国策プロジェクトでも、プトラジャヤ・モノレールが費用の面で建設が中止されました。日本の都市計画とは違って、計画されたプロ ジェクトが中止になることもあるようです。私には、これだけの大規模な計画が、すべて予定通りに運ぶとは思えません。何らかの変更、縮小はあるのではない かと思います。

□投資の多くはマレーシアの政府セクター?

 

公式発表による計画開始からの投資額の推移。このチャートに偽りなしと仮定すると、政府系の投資よりも民間ベースの投資が圧倒的に多いように見えますが、実際に現場に行ってみると、建物、道路などの公共工事が目立ち、このチャートで多くを占めているManufacturing(製造業)に該当するよう な投資は見当たりません。そのため、このチャートのManufacturingは純粋な製造業という意味合いではないと思われます。そもそも、大企業がほとんどないマレーシアにおいて、これだけのまとまった資金を出せる主体は政府以外にないはずです。

□イスカンダルプロジェクトの役員が詐欺で告発される?

 マレーシアの南国新聞なるソースによれば、「イスカンダル・マレーシアが元幹部が関与した詐欺の被害届を警察に提出/ジョホールの経済特区イスカンダル・マレーシアを運営するイスカンダル・インベストメント社が、既に辞任した同社幹部複数による詐欺行為で大きな損害を被ったとの被害届を4月4日にジョホール州警察に提出した。」(2011年4月7日)とのことです。南国新聞自身の信憑性が不明なので参考程度ですが、マレーシアでは、賄賂や汚職は当たり前と言われていますので、このようなことがあってもおかしくありません。

ジョホールバル・イスカンダルプロジェクトの明日はどっちだ?

この壮大なプロジェクトと勢いの良さに賭けたくなる気持ちは分かりますが、よく考えると次のような問題点を含んでいる計画です。

【マレーシア政府の経営能力に依存】

 工業団地計画、サイバージャヤのITハブ計画などは失敗とまでは言いませんが、当初拡げた風呂敷ほどの成果には着地せず、途中で中止、変更されたプロジェクトも出ていました。労働集約型産業でつまずきを感じているマレーシア政府の新規事業がイスカンダル計画の知識集約産業というように見えます。新規事業はそう簡単に成功しないというのは官も民も同じです。

【ハコ物は充実だがソフト面はシンガポールと同じではない】

 ハコ物の計画は立派ですが、コンテンツやコミュニティなどデジタル産業において最も重要なソフトの部分については説明がありません。ここは、サイバージャヤで失敗した教訓があまり生きていないように見えます。そして、最も重要なのは、シンガポールに近いとは言っても、そこはあくまでマレーシアであり、賄賂や汚職が当たり前のマレーシアでは、シンガポールと同じ品質の制度設計と運営ができるわけではないという点でしょう。

【シンガポールの景気過熱が落ち着いたときには】

 現在はシンガポールの景気が活況で、国内だけでは収まりきらない勢い。シンガポールを溢れた富がジョホールバルに流れ出していると見えますが、中国バブル崩壊やシンガポール政府の不動産価格抑制策でシンガポール国内の過熱が沈静化したときには、ジョホールバルの相対価値は低くなるのではないでしょうか。それと現在の、先進国基準ならば材料費よりも安い物件価格を比べて、どう見るかが相場判断のポイントでしょう。プロジェクトには不安がいっぱいだが、価格は安いということです。

【超長期計画のプロジェクト】

 計画は2025年までとされており、期間が長すぎるように思います。これだけの長期であれば世界経済の動向に大きく影響を受けざるを得ないため、計画の中止や変更は必ず発生すると思われます。特にマレーシアは中国経済の影響を受けやすい環境にあることに注意する必要があります。マレーシアは輸出依存度が高く、その輸出先はシンガポールと中国の2国で26%を占めています。中国バブル崩壊の際には、マレーシアの輸出産業へも大きな打撃となることは間違いありません。


岡三証券 マレーシア経済の基礎知識より

諸々の問題点を考えると私は現地の不動産には手を出さないという結論になりましたが、あえて言うなら、当初の計画通りには行かなくても、70%~80%の達成率が見込めるならば、非常に面白いプロジェクトだと思います。5年後にまた訪れたい街であることは間違いありません。ドバイのような夢があって、このような話しは大好きです。

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玉川陽介
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