[3-3] IRR収益力を高める方法3[空室率と賃料編]
概要
空室率を減らして賃料を高く取るには、
・妥当な賃料を設定する
・リフォームをして外観・内観-見た目の印象を良くする |
などの方法があります。これも一覧にするのは簡単ですが、実際には景気動向や地域により実践するのは難しいことが多いです。下記には、いくつかの必ず覚えておくべき事項のみを載せました。
空室率は何%に設定すべきか
これは収益を試算する上で最も重要な数値です。
とりあえず、早見表のみ貼っておきます。詳しくは、拙著「不動産投資1年目の教科書」(東洋経済新報社)をご覧ください。
妥当賃料の科学的検証
このマーケットの消費者はかなりシビアです。他より1,000円余分に高ければ、数ヶ月の空室が発生することもあります。賃料設定は妥当な価格を追求しましょう。
ここまでやるか!というくらい徹底的にエリアごとの妥当賃料を調べたのがこちらです。筆者のおすすめ。是非ご活用ください。
まずは賃料以外を下げる
お勧めなのは、敷金、礼金、保証金などを下げて、フリーレントを付け、家具などのおまけも付ける代わりに賃料は下げないという方法です。
日本の場合は、プロの目で見ると表面利回りは意味がないなどと言われていますが、いまだに3億円くらいまでの物件では、実務上は、まだまだ表面利回りが売買時の重要な指標として採用されています。これは、ほとんどの不動産投資家が素人であること、そのため、賃料を表面利回りで割って売り出し価格を逆算しているケースが多いからだと思われます。
従い、賃料を下げて(=利回り低下)早くテナントを入れたい。というのは得策ではありません。それであれば、フリーレントや敷金礼金の値引きなど、賃料はそのままで入居者を募った方が、売るときには売りやすい可能性があります。
昨今のJREITが持っているマンションにおいて、賃料は値引きしないが、その他の方法で実質的な値引きをする。というのも似たような理由からです。彼ら は常に見かけだけでも高い稼働率と賃料水準を維持する責任があるのです。我々が経営するマンションも同じで、表面的な賃料と実質的な賃料をうまく使い分け、さらに、物件ならではのウリを演出するなどマーケティング的な発想が必要です。
間取り変更とリフォームをする
若者の多く集まる町なのに床が畳であったり、全体的に昭和のイメージに染まっている住居ではテナントは敬遠したくなってしまうので、都心の賃料がある程度見込めるエリアであれば現代風にリフォームをするなど、CAPEX投資(設備の価値を高めるための追加的な資本支出)をしましょう。しかし、投資物件の基本的な心得として、自分が住むわけではないのでパーフェクトな状態を常に保つ必要はないというのも頭に入れておく必要があります。CAPEXも投資です。割に合うか否かを十分に検討しましょう。
なお、近頃(2011/05現在)空室の目立つオフィスですが、これを住居に転用できれば埋めやすいのに。ということを考えた人もいると思います。しかし、実際には、窓の位置、窓先空地の確保(東京都ほか)などのコンバージョンに際しての制限をクリアーして用途変更許可を取得できる可能性はかなり低く、 規制上難しいのが現状です。
オフィスビル用途転用のいま(東京都住宅局地域住宅部計画課)
用途転用は難しいの例(Yahoo!知恵袋の質問)
[3-7] 空き事務所を賃貸マンションへコンバージョン(用途変更)
ルームシェア化で需給のミスマッチを防ぐ
空室の多い賃貸マンションには、何かしらの問題が潜んでいます。それが単に周辺の物件よりも価格が高いためにテナントが付かないのであれば、価格を下げればよいのですが、その地域の需要と物件が合っていない場合は厄介です。
たとえば、かなり古い、広い、物件価格は安い、場所は普通、賃料合計25万円は取りたい、4LDKというような物件は、そのままの状態では、こんな古い物 件に25万円も払うなら多少狭くても違うところを探す。という自然の流れで、誰も借りない物件になってしまいますが、ルームシェア化するとすぐ埋まったり します。(ただし、次に述べるようにルームシェアや時間貸しなど、経営要素の大きい物件は、売るときに苦労することも念頭に置きましょう。)
ルームシェア化の落とし穴
ルームシェアやレンタルルームなどオペレーションが必要な業態に変更すると、賃料は確かに高く取れますが、売却時に買い手が付きにくいという問題が発生するので注意が必要です。
2DKタイプのアパートなどを留学生向けとして二人一部屋に住まわせて、通常よりも高い賃料を取っている業者をよく見かけます。さらに、その賃料をベース に表面利回りを計算して宣伝している売り物件もありますが、留学生の管理も含めて考えると、投資物件というよりは寮経営の要素が強くなってしまい、表面利 回りは意味のないものとなってしまいます。
物件を業者がメジャーな広告媒体に出稿できるか確認
他は、多くの目にとまる広告媒体に客付けを依頼した業者が広告を掲載しているか。というのも重要です。顧客の立場になればメジャーな広告媒体(ホームズ、アットホーム、スーモ、レインズなど)に掲載されていない物件にテナントが付かないのは簡単に理解できます。
現在では、賃貸物件の多く(特に住居)は、駅前不動産の紹介や不動産業者間の情報流通ではなく、ネット検索により顧客に発見されます。そこで問題になって くるのが、広告の掲載は有料であるため、中小の業者からすると負担が重く、それらの業者は、大きな広告媒体に広告を載せるアカウント(ID)を持っていないことがある。ということです。
では、大手の業者ならばすべての媒体に出稿するかと言えば、そうでもなく、大手は提携関係にある媒体のみに出稿するのが基本ですので、業者に対して、具体的にどの媒体に広告を出すことはできますか?などと確認してみるのが効果的です。
中には、媒体からの反応に加えて、個人リピーターや法人顧客などの固定客を持っている業者もありますが、そのような優良業者と出会うのは簡単ではないため、少なくとも媒体への出稿方法だけは最適化しておきましょう。
図面や写真はキレイに仕上げる
同じく顧客の立場になって考えてみれば分かることですが、図面や写真はキレイに作る。これは重要です。その方が、現場を見に行きたくなる物件となります。特に写真はデジカメではなく、一眼レフ+広角レンズで撮って、PhotoShopでトーンカーブを調整する程度のことはしたいところです。賃貸専門の業者は、この程度のことは、ほぼ全社が行っています。
それでも埋まらない場合は、折り込み広告、店舗など商業系の場合は、DM送付、テレアポなどを行うと費用はかかりますが、空室率を下げるのに貢献します。 賃料1ヶ月分の予算を使う気持ちで十分でしょう。1ヶ月分の賃料予算で2ヶ月早くテナントが決まれば差し引き1ヶ月分の得です。
[8-1] 賃貸市場/住居系
[8-2] 賃貸市場/事務所・商業系
サラリーマン大家さんが購入後に思ったほど儲からない理由
これは、ほとんどの場合、入居率や募集費用の見通しを間違っているために当初の予定通りの利益が出ないことが原因です。まず、3年半入居して退去後はリフォーム期間も含め2ヶ月で必ず決まるという常に満室のように見える物件でも、38ヶ月中2ヶ月は空室ですので入居率95.5%です。そのため、常に満室に見えている物件でも入居率の上限は95%程度で計算すべきです。
これに加えて、仲介手数料や広告料、フリーレントなどが物件の人気により賃料の1~3ヶ月分発生します。都心の物件で、広告料を1ヶ月も出せばすぐ決まるという賃貸需要が悪くない物件でも、現況賃料年額の7%ほどを募集費用として見込んでおくべきでしょう。多くの物件において修繕費用よりも募集費用の方が多くかかるにもかかわらず、購入時に募集費用を考慮せずに収益試算する投資家が多いため、予想よ りも利益が出ない原因となっています。地方物件のように、入居までに広告料やフリーレントを合計3ヶ月ほど付けるような賃貸苦戦物件では、賃貸付けの募集 費用を正確に試算することは特に重要です。
一方、修繕費用が予想よりかかった。売却価格が安すぎて損をしたという話しはあまり聞きませ ん。入居率や募集費用の見通しを正しくすることこそが不動産を購入後に損をしない最大のポイントです。転売業者やセミプロ大家さんは、売却時には高い賃料 で満室にして転売を試みますので、同じ条件で再募集した時に2ヶ月以内に入居するのかを検証することも必要です。これは地元の管理会社や賃貸客付け業者に 聞くのが一番分かりやすいでしょう。なお、入居率は見通しさえ付けば高位安定している必要はありません。入居率が低ければ低いなりの価格で買えば十分に利益が上がります。