[4-1] 物件調査(基本資料編)
物件の調査は、資料から読み取れる定量情報をもとに行うのが一般的です。さらに、現場調査や噂話など、資料に載らない定性的な情報(これが購入意思決定を大きく左右したり)を総合して判断します。
業者に、「資料全部ください」と言っても、通常は、ごく基本的なものしか出てきませんので、ほしい資料があれば、具体的な名称を挙げて依頼しましょう。特に宅建業法上、説明義務のない事項については、購入者にあまり多くの情報を与えない方が早く決まると思っている業者もいますので、どこを確認しておかなければならないのかを自分で把握しておきましょう。
特に、不動産の扱いに慣れていない人は、「検査済証」「竣工図」という言葉も聞いたことがないと思いますが、これらの存在はとても重要です。ここでは基本資料を紹介します。
なお、調査で何を理解できれば合格と言えるのか。最も重要なのは、賃借人が安定時に付くか(これで勝負は9割決まります)、また将来的に修繕が必要となるカ所と金額です。この二つを必ずおさえましょう。
定量面の調査
【共通書類】
□土地と建物の登記簿謄本
ネットで取得もできます。任意売却案件などでは「差押」(主に税金滞納が理由)などが付いていることもありますが、解除できる限りは、過去に差し押さえら れたり、競売にかけられたりという履歴は気にする必要はありません。新婚さんの自宅用途などでは縁起が悪いかもしれませんが、それを理由に値切ることはできません。
□住宅地図
必須書類とされていますが、実務上は必要ありません。Google地図で十分でしょう。
□レントロール
過去から遡って、長期の入居状況を記録している人は、まずいません。部屋毎に数年前からの賃借状況を一覧表にしてほしいなどと頼んでも「時間がかかる」などと言われて出てこないことがほとんどです。
□公図
法務局にあります。地型を見るためではなく、権利関係を調べるために使います。
□地積測量図
法務局に備え付けてることもあれば、ないことも。
□竣工図
竣工図とは、設計図に施工の際の変更点を反映したものです。
□建築確認済証
□検査済証
ごく一部の金融機関では、融資に検査済み証が必須ですが、昭和築の小規模物件の場合、ほとんどの場合、検査済証を取得していません。
□固定資産評価額
左は固定資産税評価証明書。この資料と類似で、あまり見かけませんが、固定資産関係証明書(右)という書類もあり、関係証明には課税額(支払う固都税の額)も記載されています。固定資産税評価額は3年に一度見直しとなり、前回の見直しは平成24年(2012年)でした。固都税は、1月1日現在の所有者に対して課税され、毎年、1月1日現在の所有者が記載された評価証明、関係証明が更新されますが、本年度の評価証明を取得できるのは同年4月以降であるため、1~3月に取引をする場合は、昨年度の評価証明ベースで評価額を算定します。評価替えの年にかかるようであれば、4月以降に固都税を再精算するという契約も行われているようです。
□修繕履歴
修繕工事の記録は、できる限り細かく残しておくことが望ましいですが、個人保有の物件だと、数年前に屋上防水をした「はず」など、曖昧な証言のみで証憑が 残っていないこともあります。買主側で銀行融資の審査をする際にも、修繕履歴は重要な参考資料となりますので、日時、何をしたか、いくらかかったか、工事明細などの証憑は保管しておきましょう。
なお、過去にどのような修繕をしたか、全く覚えていない場合は、税務資料の固定資産明細を見て、不動産に関わる固定資産の取得原価を洗っていけば、概ね把握できるはずです。すべて一括損金としている場合は、総勘定元帳を見ましょう。
■構造計算書
これは不動産業者が見ても意味が分かりません。昭和築の小規模物件では、大半の場合に紛失などの理由で現存しません。
□物件状況等報告書、付帯設備表
実務では、あまり重要視されていない気がしますが、瑕疵担保に関連して重要なディスクロージャー書類です。ここで予め物件の不具合を明示しておけば既知の瑕疵となります。
【接道状況】
建築基準法上、幅4メートル以上の道路に2メートル以上接道していないと建物は建ちません。この道路にもいくつもの種類があり、見た目は立派な道路でも法律上は通路であり再建築のできない場所もあります。
各市区役所の建築指導課で教えてもらえますが、最近は川崎市のように道路種別がネットに公開されている地域もありますが、都市でも豊島区のようにネットでは見られず役所を訪問しなければ教えてもらえない地域もあります。(2011年8月現在)
■国道、県道、市道の幅員を示す「認定道路情報」
■建築基準法上のどの種類の道路に該当するのかを色分けして示す「建築基準法道路種別」
建築基準法第42条の道路には、次のようなものがあります。いずれもの種類であっても接道していれば再建築は可能です。
1項1号道路 | 道路法による道路 |
1項2号道路 | 都市計画法などによる道路 |
1項3号道路 | 建築基準法施行前から存在する幅員4メートル以上の道路 |
1項4号道路 | 2年以内に事業執行が予定される都市計画道路(再開発の予定がある場所) |
1項5号道路 | 位置指定道路(建売団地などで新しく作られた道路) |
2項道路 | 4メートル未満の道路だが建築基準法上は道路扱いできる道路 |
3~6項道路 | 都心ではあまり出てきません。 |
【一棟の場合】
■水道とガスの配管図
水道の配管(左)と東京ガスの配管(右)
■土地筆界確認書(民民境界)と隣地所有者の印鑑証明書
地積更正、分筆をしない限りは、印鑑証明が必要になることは実務上ありませんので、隣地所有者の実印だけでも境界確定済みとしているケースが多いです。な お、印鑑証明がない場合、実印が押されていたとしても認め印と区別が付きません。逆に言えば、建売用地などで分筆を前提としている場合は、印鑑証明付きの 筆界確認が必ず必要です。
法律上は、土地筆界確認書の有効期限はありませんが、実務上は、7-8年以上古いものである場合は、売買時にもう一度、隣地に依頼して土地筆界確認書を作り直していることもあるようです。
■境界確定協議書(官民境界-あれば)
市章の入った官民境界線。
官民境界は未確定のまま売買されるケースも多いです。
■法定点検の記録
管理が自主管理や街の不動産屋に管理委託しているというような場合、遵法性に問題のあるケースも少なくないので、この規模のビルなら、法定義務はどこま でなのか?というところも調べなければなりません。遵法性は売却時の好印象にもつながります。付記するならば、管理業者としては日本ハウズイング、東急コミュニティあたりが一流どころと聞いています。ほか財閥系も大丈夫だと思います。
ただし、昭和築の雑居ビルで完全に法律に準拠させた運用を行うのは、かなりコストがかかり非現実的だったり、仕様上困難であることが多いです。細かな違反 が普段から問題になることは少ないのですが、ビル火災で死者が出たような場合、看板が落下して通行人をけがさせたような場合、オーナー責任が問われること になりますので注意が必要です。
【区分所有の場合】
・管理組合の管理規約 ・管理費と修繕積立金についての情報 ・大規模修繕計画 |
【賃貸用物件の場合】
・入居者との賃貸契約書と担当者連絡先 ・レントロール(=賃料表 想定空室率10~15%程度を計算に入れる) ・消防法への適合 ・館内細則 |
【借地の場合】
・底地所有者と売り主との借地契約書 ・借地譲渡承諾料と地代の確認 |
【私道ありの場合】
・私道の協定書 |
【囲繞地の場合】
・通行許可(他人の敷地を通らなければたどり着けない場合) |
【エレベーターがある場合】
・エレベーターの検査済証![]() 古いエレベーターはメンテナンスと修理費用に要注意。 ・保安協会とメンテナンス会社への月額管理料 |
【機械式駐車場がある場合】
・壊れたときの修繕代(高額) ・月額の電気代と管理費 |
【マスターリース契約されている場合】
・マスターレッシー(転貸人)との契約書 |
【その他】
・セコム契約している場合は契約の引き継ぎ要否 ・用途変更したい場合は変更後の用途がその場所と建築構造で実現可能か(消防法、文教地区内での営業禁止業種など) |
[知るべき重要な法制限]
□用途地域
□建蔽率と容積率(容積緩和の特例) |
定性面の調査
[資料に現れにくい要素]
□心理的な瑕疵(殺人事件が起きたなど) □眺望がお墓など(人によっては嫌がる場合あり) □日照 □飲食店からの臭い □シロアリ □低層階や古い建物の場合は結露(意外に重要) □空き巣が入った履歴(これは近所の人に尋ねるなど、一度入られたところはもう一度狙われやすい) □ビル風がやたら強い □高いところに夏場、熱がこもる、 □ひずみを計測(水平器などで) |
[ほかに確認が必要なこと]
□売り主が瑕疵担保責任を負える主体か(売った後に国に帰ってしまう外国人、債務超過で整理中の会社などが相手では、実務的には訴訟で回収することもできない)
□売り主が宅建業者か(瑕疵担保責任の範囲が変わってくる) |
[調べるべき周辺情報]
□周辺の同グレード物件の賃料(意外に調べない人が多い)
□周辺の土地売買事例により土地単価を調べる |
[その他]
□アスベスト
□水質と土壌汚染 □防音性 |