「学生でも必ず分かる日本経済講座第一回」質疑応答より
■アベノミクスで「経済のよい循環」を作ることを目指しているそうですが、なぜそれが必要なのですが。私のたちの暮らしにはどのように結びついているのですか?
これは8月に出る「勝ち続ける個人投資家のニュースの読み方」(KADOKAWA)でも、たくさんのページを割いて説明している重要な内容です。
今の若者にはデフレマインドが浸透しすぎて「景気が悪いのが当たり前。それでも生活は成り立っているけど、何が問題なの?」ということだ言いたいのだと思います。
そういう人は、シンガポールなどの新興国、カンボジアのように貧富の差が激しい国に旅行に行くといいと思います。現場で好景気を見てくれば肌感覚でですぐ分かります。
「経済のよい循環」が必要な理由をまとめると、次のようなものです。
戦後の焼け野原を復興→高度経済成長期で所得倍増計画→世界最大級の資産バブル ここまではよかったのですが、90-91年のバブル崩壊以降は不況が続きました。この不況のおかげで、経済活動が停滞しています。経済活動が停滞すると何が問題なのでしょうか。
景気がよいとは?
そもそも健全な経済の状態とは次のようなサイクルです。
モノがよく売れる→物価が上がる→企業に利益が出る→社員の給料を増やせる&継続雇用できる&いつでも転職先がある→お金を貯めずに使っても生活には困らない→前向きなマインド→消費が増える→高くてもいいモノが売れる→最初に戻る
また、企業に利益が出る→希望に満ちた経済というマインド→株式市場に期待する人が増える→株価が上がる→株で儲けた人が不動産も買う→資産の値上がり益でモノを買う→消費喚起
という循環が成り立ちます。日本も高度経済成長期までは、こんな循環だったようです。現在では、アジア新興国の経済はこんな調子です。これが経済のよい循環です。
景気が悪いとは?
一方、デフレスパイラルとかスタグフレーションと呼ばれる、日本型の悪い経済循環とはどんな循環でしょうか。次に説明します。
「給料が上がらなくてもデフレで物価が下がっているので特に問題ないのではないか?なぜインフレにしなければならないのか?」という質問もありました。
給料も物価もセットで下がっていれば、生活実感は変わりませんので問題ないのではないか?よいご指摘です。
ひとつの家庭だけを見ればそうかもしれません。しかし、家庭が収入を得られるのは、勤務先である企業に利益が出ているからです。
企業の利益が出なければ給料ももらうことができず、家計は成立しません。
不景気でモノが売れない→値下げ&低価格競争→臨時雇用&ワーキングプアーで人的コスト削減→就活も決まらない→明日の見えない生活→モノを買う気力が生まれない(デフレマインド)→いつしか、モノを買う奴は馬鹿だというルサンチマンに変化→モノを買わずお金を使わないのが正しい生き方という認識→ますますモノが売れない→安くて絶対に必要なモノ以外は売れない→サービスや付加価値に値段が付かない→店をたたむ企業が増える→経済縮小→株や不動産も下落→個人投資家も損失→最初に戻る
このように、全体で見ると、デフレは個人の財布にも悪影響を与えているわけです。
低価格競争による過度な経済合理性の追求は文化の断絶にもつながります。書道教室や和菓子屋さんがパチンコ屋になってしまったら、もう元には戻りません。
予算がないからと言って先端コンピュータの研究をやめてしまったら、10年後に再度再開して世界一を目指すということはできません。
文化や科学技術を維持・継承するためにもお金に余裕があることは重要なのです。