2021/04/07

玉川陽介 日本経済解説(日本の金融システム編-日本銀行の役割)

第3部 日本の金融システム編

ここからは経済ではなく金融です

日本銀行の役割

1 お金とは何か

物々交換よりも便利

お金とは何か。経済活動のもっとも基本的な理解については世界で諸説があり、お金とは何者でどのような特性があるのか確実なことは証明されていないといえます。

それでも、お金に対する基本的な理解がなければ、インフレ、信用創造、財政破綻など重要な金融市場のイベントが理解できないため、金融市場関係者に一般的に常識とされている、お金の姿を説明していきます。

ひとまずのところ、お金とは国の資源を使う権利、他人に役務をさせる権利と考えれば良いでしょう。お金は保存もでき、りんごや牛肉の物々交換とは違って規格品なので流動性もあり機能的です。もちろん、ここまでは子ども向けの説明に過ぎません。ここから先の本質的な理解に踏み込んでいきましょう。

金本位制

まずは銀行融資による信用創造(レバレッジ)や金融市場による複雑な資金のやりくりがないシンプルな世界を想像してください。お金は電子化されておらず紙幣でできているとしましょう。

人口は100人、産業は農業、鉱石から鉄を作る製鉄所くらいしかない小さな独裁国家だとしましょう。そのほうが話は分かりやすいと思います。その国で発行された紙幣を国の両替所に持っていくと、いつでも金塊に交換してもらえる制度になっていたらお金に価値が付くのではないでしょうか。

かつて米国の中央銀行は金塊を大量保有していて、米ドルはいつでも金塊は交換できることを約束していました。(ブレトン・ウッズ協定)金塊と交換できるならば紙幣には価値があるに違いない。みんな金塊が好きだからです。
しかし、それには大量の金塊が必要で、交換比率を維持するには物価の安定も必要。長期で維持するのは無理があるので金と交換することはやめました(ニクソン・ショック)

不換紙幣の誕生

それ以降、お金は、国家が「このお金は使えます」と保証している以外は交換の裏付けがない、法的に保証された紙となりました。つまり、紙幣は単なる紙になりました。なぜ単なる印刷物に価値があるのでしょうか。

お金は国家との契約書だと考えれば良いでしょう。しかし、国家は信用できるのでしょうか。何を根拠に国家は1万円が使えることを保証しているのでしょうか。

法的に保証された紙にはいかなる力があるのでしょうか。これには諸説あり、確固たる結論は出ていないように思いますが、ひとつの考え方としてつぎのような理解をするのはどうでしょうか。

国に対する権利と義務の精算

お金の価値は、国の目線で見た方が分かりやすいのです。
国家から見れば国民は労働資源であり、徴兵したり、石炭を堀に行かせるなど強制労働を命じることができます。小学校の教室掃除を生徒にやらせるようなイメージでしょう。これを税といいます。

しかし、都会で別の仕事をしている人にこれを命ずると、本業を中断して不得意な仕事に従事しなければならず非効率です。そのため、人々は本業で稼いだ労働価値をお金に換えて国に納め、国はそのお金で炭鉱夫を雇い価値を相殺します。これにより国民は国に対する強制労働の義務から逃れられます。つまり、お金は税金(国家に対する義務)の支払いに使えるトークンです。

国内の国民に対しては、そのような意味合いだけでもお金の価値は保てるでしょう。誰しも強制労働に従事するよりも、お金を払ったほうが楽ですので、お金を集めようとします。

国内の鉱山や土地、人間の労務、インフラ、社会システムも国が所有している資源といえます。ですから、それが十分に機能し、提供できている限り、人々は国とお金を信じます。

こう考えると、私たちが使っている日本円には十分な価値があることは誰にでも分かるでしょう。このように、お金の価値が約束されていれば、国との取引のみならず、民間の商品売買や、役務の依頼にも使うことができます。

人々が価値が理解できれば、民間も自発的に日本円を使うようになります。日本政府は約束は守るし安定しているので価値を保ちやすい通貨といえます。政府が急にルールを変えない限りは。

2 外貨準備高は裏付け

外国も含めて考えてみたらどうなるでしょうか。外国相手では、税の支払いを起点にした通貨価値は通用しません。外国人は政府に納税する義務がないからです。ではどのように対外的に通貨価値を担保しているのでしょうか。

ところで、現在の金融市場では、通貨は金塊と交換できない代わりに、他国の通貨と自由に交換できるのが原則です。

従い、日本円に価値があるのかどうかは市場参加者の多数決で決められます。国際社会で日本に烙印が押されれば日本円の価値も下がります。しかし、価値が下がりすぎれば、日本の製品や土地を買いたいと思う外国人が増えるので、国の資源に魅力がある限り、また、政府が紙幣をきちんと管理できている限り、通貨は一定の価値に落ち着くことになるでしょう。これが変動相場制です。

しかし、通貨価値を維持するには、自国の資源価値だけでは金融市場では不十分とされています。
現在は、金本位制からドル本位制を経ての通貨バスケットにより自国通貨価値を担保することになっています。いろいろな主要国に対する権利(相手に対して何らかの資源や役務を提供させる債権)を分散して保有することにより、自国の通貨も対外的に価値があることにしている。

たとえば、日本の通貨は日本が保証しているが、その日本は米国に対して債権を有している。その米国は欧州に対して債権を有している。欧州はアフリカの鉱山を担保に取っている。となれば相互に固く結ばれており、約束が反故にされるのは戦争くらいしかありません。このように、世界の国々が持ちつ持たれつの債権債務を共有することにより、その債権であるお金に価値を付けているといえるでしょう。

では、実際、外貨準備として蓄えた外貨はどこで誰が管理し、数量を正確にカウントしているのでしょう。もちろん、紙幣の現物を山積みにすることはなく電子化されています。外国の中央銀行に現金を預けたり、米国債などシリアル番号の付いている金融商品を保有しているので、国外から見ても外貨準備の信憑性は担保できています。そのため、仮に、「中国の保有する米国債はすべて無効とする」などの一方的な処遇は許されず、そのようなことになれば通貨の信頼は失われ戦争になるかもしれません。

3 通貨価値が損なわれるパターン

あまりに政府の運営が悪いと資産はあるはずなのに約束が守られずに紙幣が信頼されず米ドルが流通することがあります。ベネズエラなど、管理の悪い発展途上国ではよくあります。
送金規制など、自由経済市場のルールと反する一方的な規制も通貨価値を毀損します。送金規制は、お金の国外での流通を妨げ、この国のお金は国外では使えない。ということを想像させるためです(通貨危機時のトルコなど)

私有財産権の侵害も国家に対する信用を毀損します。この国で財産を保有してもなんだかんだと理由を付けて没収されるのではないか。そのような場合、国内資産を売却して現金化し国外に逃げる人が増えます(中国から香港への資金逃避など)

図版1 通貨価値が損なわれる場合の概念図

また、金利が付きすぎる通貨もよくありません。年利500%の通貨があれば魅力的でしょうか。100通貨を預けると翌年には500の利子が付く。ありがたい話です。しかし、よくよく考えてみましょう。この小さな島にある資源は一定です。その中で、お金だけが6倍に増えたわけです。買えるモノの数量、動かせる人の人数は変わっていません。とするならば、通貨の価値は1/6に減ってしまったと考えることはできないでしょうか。

このような仕組みにより、金利が高すぎる国の通貨は、年々、価値が下落すると考えられています。

4 教科書通りにならない動き

ただし、現実にはオーストラリアのように、金利は高くても、豊かな国で信頼があるがゆえに、(少なくとも短期的には)高金利を目当てに資金が集まり、経済が活性化するという事例もあります。米国も利上げをすると米ドルで運用したい人が増えて通貨高になるのはよくある市場の動きです。

現在では、モノをいくつ買えるかという実需よりも、運用益がいくら見込めるかという金融市場のプレイヤーのほうが大きなお金を動かしています。そのため、期待利回りが高い通貨は人気が出て通貨高となると考えればいいでしょう。経済は必ずしも教科書通りはならないことに注意しましょう。

もっとも通貨価値を損なうのは、紙幣を増刷することのはずです。島にある物の数は一定であるのに紙幣だけが増える状態です(サブプライム危機以降の日米欧)そうなれば、一枚の紙幣で買えるモノの数を減らすしか均衡策はありません。しかし、コロナ禍の通貨と経済の関係をひとことでいうと「お金を増刷してもインフレにならない状態」といえます。これも、教科書通りにいかない好例です。

メモ
図版2
日本円とスイスフランは安全通貨

5 マネタリーベースとは

このように信用創造によるレバレッジのない世界。国が最初に発行した通貨だけが流通している状態。このような国が最初に発行した通貨のこと。銀行が信用創造を提供してレバレッジをかける前の通貨の流通量(厳密な解説はXで)をベースマネー、ハイパワードマネー、マネタリーベースなどという。マネタリーベースと言われることが多いが、いずれも同義である。信用創造のベースになるマネーだ。
そして、先ほどの説明のようにマネタリーベース(紙幣の数量)が増えると、紙幣は相対的に価値を毀損する。
マネタリーベースが大幅に増えているのは、量的緩和策を通じて、ベースとなるお金の量を増やしているから。

図版3 マネタリーベースの図

6 マネーサプライとは

借金が増えても返済できる限りは、資金の融通である。
みんなが返済できる程度の借金だと信じている限りは通貨の価値を毀損しない。余っている資源を他の足りない人のところに一時的に回しただけで最後には元通りに戻るから)レバレッジが高まっても通貨が増刷されても使える金が増えることには変わらないが、その意味合いはまったく異なることに注意。通貨は増刷されればその時点で希薄化するので通貨価値を毀損するが、レバレッジは元に戻せば当初と何も変わらないので毀損しない。ただし、借金が返せないと思われると、どこかで破綻処理が行われて、借金の棒引きが強制されるなど通貨を持っていても、破綻のとばっちりを受けて買えるモノが減ってしまうことが想像が付くから。
マネーサプライはあまり増えていないといわれる。これは、民間の自由意志によりレバレッジ(銀行借入)の少ないビジネスが選好されているため。中小企業は高齢化でここからレバレッジをかけていく雰囲気になく、大企業は成長分野を探せていないため借りてまで投資する先が見つからない等言われている。

日本ではマネーストック統計としてマネタリーベースの統計が公開されている

図版4 マネーサプライの図 M1,M2,M3
「マネーサプライ統計」の見直しに関する最終方針 – 日本銀行

マネタリーベース(日銀が作ったお金)を超えてレバレッジをかけた時、個人の預金100万円が株へ資本投入され100万円分の株式が純資産となり、資本投入された企業は資本金として100万円が純資産になる。
お金が社会を巡っているあいだに社会全体では資産が200万円となり二重カウントされることになる。実際には複数の主体の資金が入り乱れて、全体像は非常にわかりにくい。その流れを分かりやすくまとめたのが資金循環統計。

図版5 資金循環統計の図

7 日銀当座預金と日銀ネット

「日本銀行は銀行の銀行」「日銀当座預金は、銀行が余ったお金を入れておく特別な口座」などと説明されることが多いですが、抽象的な言葉を使うほどに実態がわかりにくくなってしまいます。ここはなるべく具体的に理解したい重要なポイント。

日銀当座預金は日銀のコンピュータ上に作られた、各金融機関が持つ決済口座。
2019年7月現在で522の金融機関が直接に接続
信用組合だけは全国信用協同組合連合会経由で接続しているが、小さな信用金庫や東京短資など短資会社も直接接続している。
これは、財務省や日銀と国債を売買するときに決済指定口座となる。国債の購入代金は、三菱UFJ銀行の財務省口座に振り込むわけではない。

また、重要なのは、金融機関同士の決済である。
金融機関同士で国債を売買したり、コールローンと呼ばれる短期融資を受けるときに、資金を受け渡す場です。
つまり、三菱UFJ銀行からみずほ銀行に銀行として送金したい場合、それぞれの銀行に法人口座を作って電信送金をするわけではなく、日銀の提供する日銀当座預金で支払をします。これが「日本銀行は銀行の銀行」といわれる意味合いでしょう。そのため、常に金融機関は日銀当座預金に十分な預金を置いておかなければいけません。一般的には、貸出に回っていないお金が日銀当座預金に置かれています。これが「余ったお金を入れておく」と言われる意味合いでしょう。

日銀が各金融機関に日銀当座預金を使わせる理由は、マネタリーベースの調節とDVP決済のためと考えればいいでしょう。(X章で説明するDVP決済参照)
各金融機関がここに資金を置いて日銀が管理することにより、国債を売ったはずなのに売却金が届いていない。よく見たら振込先を間違えていたとか残高が足りないのに買い注文を出してしまった、送金から着金までに時間がかかるので着金確認の電話待ち。などの問題がなく、即時に全額を確実に支払い、受け渡しすることができます。
日々、複雑化する資金決済を確実なものにすることは金融システムの安定という意味でも非常に重要です。
日銀ネットは、このように金融機関同士の送金と国債取引の決済に対して提供するためのものと考えればいいでしょう。

マネタリーベースの調整とは、どのような意味でしょう。マネタリーベースとは、日本国が製作した紙幣の量です。マネタリーベースは、紙幣の数量+日銀当座預金残高と定義されています。なぜ、日銀当座預金残高も現金と同じ扱いなのでしょうか。日銀当座預金に回っているお金は、預金されたお金のうち融資(信用創造)により勝手に増やされたレバレッジ部分ではなく、根源的なお金(預金)のみだからです。詳しくは銀行の章で説明。

そのため、日銀のバランスシート上では、印刷した紙幣や日銀当座預金は負債として計上されており、それに対応する資産が、主に日銀当座預金を通じて購入した国債になっています。

8 マイナス金利とは何か

制作中
日銀当座預金には付利があった
図版6 日銀のバランスシート表
日銀ネットを使ってどのように資金決済がされている
準備預金制度
図版7 日銀を中心としたお金の流れの図版

9 日本銀行の仕事1 紙幣の印刷

制作中
紙幣の印刷
電子化の時代となっても紙幣の管理は必要。偽造通貨が出回らないように。
日銀ネットの管理

10 日本銀行の仕事2 通貨価値の安定

制作中
物価と為替の安定が日本銀行のテーマ
お札の裏付けがないから
発展途上国ではお金の管理を間違えて大変なことになっている例も
ハイパーインフレになるとどうなるの~ジンバブエ紙幣から分かること~
お金に信頼がなくなり使えなくなる
米ドルが流通する

11 日本銀行の仕事3 金融政策決定会合と政策金利

制作中
金融政策決定会合、フォワードガイダンス
日本銀行の独立性は本当か トランプ大統領
短期金利の操作
長期金利も連動する

基準金利
政策金利
LIBOR不正
流動性の罠
実質金利
公定歩合より無担保コール翌日物金利

マイナス金利は何の金利がマイナスなの?
オーバーナイトコール
短期国債

12 量的緩和

制作中
いまの金融市場を理解するためには量的緩和の知識が必ず必要です。
日銀は、2013年4月に量的緩和を本格開始
日銀が推進する量的・質的金融緩和とは何か長短金利
金融緩和、金融引き締めとは
テーパリング、出口戦略とは
日銀券ルール
非伝統的金融政策
オーバーシュート型コミットメント
リフレ政策
ETF、J-REITの買入れ
日銀の国債保有比率

図版8 量的緩和の図版

13 日銀オペによる資金の最適化

制作中
国債入札制度
国債入札 プライマリーディーラー
為替介入
通貨スワップ 韓国とのスワップの例
米ドル資金供給オペ
システミックリスクを防ぐ
資金が枯渇するときに流動性を供給 2000年問題など 補完貸付制度(ロンバート型貸付制度 安心感の提供
日本銀行、オペレーションプライマリーディーラーは買うときは買わなければならない、売るときは任意だが日銀プレイができる。入札で財務省から買ってすぐに日銀に高く売る。日銀も買い集めなければならないので、わざと高い買い取り価格を提示

日銀公式 金融システムレポート

14 日本国債の発行

制作中
日本国債を発行しているのは財務省であり日銀ではありませんが、金融市場では国債市場は日銀の管轄と認識されていますのでまとめます。実務手続きを財務省がやっていると考えればいいでしょう。

50年ルール
ロールオーバー
1,000兆円の借金
財政ファイナンス 直接引き受け

1,000兆円といわれる国債残高の全額を返済するプランを立てる必要はなく、安全な水準の残高に収まっていれば何の問題もありません。
たとえば、借金が1,000兆円、国民一人当たりの借金で計算するといくら。家計に例えれば・・という説明が実態と乖離しており意味をなさないこと、
なお、国には安定的に税収があり、人とは違い寿命もなく永続の前提です。そのため、国債は全額を返済する必要はありません。返しては再び借り、どこの国でも自転車操業が基本です。

プライマリーバランス
金融システムの管理
統計レポートを作って市場をモニタリング。各金融機関

国債等の保有者別内訳
(平成30年12月末(速報))

個人の金融資産を狙え
国の損益計算であるプライマリー・バランスは10兆円ずつ赤字になっている

図版9 保有者の一覧図

15 マクロ経済に対する議論

制作中
中央銀行は紙幣をどんどん発行しても良いという議論
MMT(Modern Monetary Theory=現代貨幣理論)
流動性の罠
シムズ理論
マクロ・プルーデンス
外貨建て債務がなければデフォルトしない。デフォルトはしないが混乱はする

深読みコラム1 [素朴な疑問に回答]なぜデフレよりもインフレがいいの?
インフレタックス
デフレでもいいかなという議論
教科書的には給料、物価、将来期待が上がる
[日本経済のポイント]日本銀行の金融政策が景気回復の要!?
国債の発行は財務省

アベノミクス第一の矢
金融政策は限界か
実体経済へ波及させるには財政政策か
給料を増やしたい

図版10 教科書的なインフレの構造図

深読みコラム2 [日本経済の問題3]日本の借金問題とは
何が心配されているのか 金利上昇局面で新発債が吸収できない
国債の札割れ

図版11 札割れとパニックの構造図

真水
不胎化介入

図版12 アベノミクスの目論見と実際の比較図