2021/04/07

玉川陽介 日本経済解説(日本の金融システム編-信用創造の仕組み)

第3部 日本の金融システム編

2 信用創造の仕組み

銀行は、法律上は民間企業ですが一般の会社とはまったくことなる原理で動いており特殊な経済活動をしています。
その核となるのが融資です。経済システム上、融資は信用創造といわれ、その仕組みは、経済や景気を理解するために必要不可欠な知識です。
細部をあいまいにせず完全な理解を助けるために、本章では、非常に初歩的なところからはじめて、細部の理解にいたるまで多くのページを割いて説明をしたいと思います。

16 貸借のスプレッドが銀行の利益

まずは銀行のはじまりから考えてみましょう。
銀行を作るには「自己資本」と呼ばれるお金が必要です。自己資本は、普通の会社で言う資本金と同じで、いわば自分のお金です。

それに加えて、銀行は、人にお金を貸すには当然ながらお金が必要です。しかし、何兆円ものお金が余っている事業家はいません。そこで、近所の高齢者など、お金の余っている市民からたくさんの預金を集めます。

もちろんタダでは預金は集まりません。預金者には相応の利子を払い、利便性の良い場所にATMを設置して税金支払や他行送金(決済業務)ができるようにするなど、自宅に現金でおくよりも預金したほうがよい状況を作るためにコストをかけています。

そこで集めたお金は、住宅ローン、賃貸不動産購入資金、事業法人向け運転資金など、お金を必要としている人に又貸し出されます

銀行はお金のレンタル料として利子をもらいますが、預金者に支払う利子よりも、貸出で得られる利子が高いので、安く借りて、高く貸すことができます。それにより銀行は差額(貸借のスプレッド)を利益として得られます。これが銀行のビジネスモデルです。

さて、ここまでは信用創造以前の前知識です。ここから本題です。

17 融資と与信

一般の人から見た銀行の役割といえば、他行振込をはじめとする決済業務でしょう。しかし、これは銀行の収益源となる業務ではありません。
私たちがATMを使う時に支払う324円は、銀行の主たる収入源ではなく、おまけの収入のようなものです。

銀行は、融資が本業です。銀行の立場だけで考えると、貸借のスプレッドが利益になっていることだけを知れば十分ですが、経済システム全体の視点で見ると、融資(与信)による信用創造機能でお金を使える人が増えて、経済が拡大することが最重要ポイントです。

なぜ、融資によりお金が増えるのでしょうか。まるで打ち出の小槌のようです。なお、厳密には、お金が増えているのではなく、お金の一時的な利用権を与えられた人が増えた。というのが正確です。

これはどのような意味合いでしようか。
銀行が企業にお金を貸すのは、その企業に「残高の記帳された通帳を渡す」ことにすぎません。
これは「与信」と言われ「当面の間、お金を使う権利」を授けることであり、1万円札(現金)をあげることとは意味合いがことなります。

現金をあげると現金はなくなってしまいますが、「残高の記帳された通帳を渡す」こと、すなわち、与信を与えることは制限なく無限にできるという点で違います。コンピュータに貸出額を入力するだけでいいからです。

また、借りた側も紙幣をもらったのとは大きく意味合いが違います。融資として一時的に借りているだけですので、最後には返す必要があります。

この帳尻を合わせるには、お金を借りた人が、そのお金を使って儲けを出す必要があります。
借りた100で商売をして102に増やす必要があるのです。
そして、利子1を支払い、儲けの1だけを手元に残し、借りたお金である100は銀行に返せばよいのです。

そうすれば、経済全体で見たお金の総量は元に戻り、銀行は1の利益、事業者も1の利益を得られてハッピーエンドとなります。
そして、このような貸出先が何百件もあれば、信用創造でお金を貸すことにより、みんなが利益を得られます。経済活動として意味があることが分かるでしょう。

18 貸借のバランス

個別の融資取引により、お金を使える人が増えて経済が活性化したことは理解できたと思います。今度は、経済全体で見ると、何が起きているのかを深掘りしてみましょう。

「残高の記帳された通帳」を企業に付与して与信を与えると、貸したお金の分だけ自行の預金が増えることに注目しましょう。
貸したお金は1万円札の束で債務者に手渡されるわけではなく、借りた人の普通預金口座の残高増加となって現れるからです。
そのため、たくさん貸すと、貸出金と(貸し出したお金が預金になるため)預金残高は、それに比例して増えていきます。

しかし、債務者はお金を使うために借りているわけです。その融資金で機械設備を買うために他行宛に振り込みをするでしょう。そうすると、その預金は他行に流出して自行の預金残高は減ってしまいます。
しかし、他行の預金残高は増えるので日本全体で見れば流出は発生しません。日本全体で見れば預金は増える一方なのです。

このように、銀行融資により、際限なく預金残高がふくらんでいくことを「信用創造」といいます。

今までの説明の通り、銀行は、最初に近所の高齢者から預かった預金額とは無関係に、その何倍も貸し出すことができてしまいます。
なぜなら、融資は、審査部がハンコを押すだけで、いくらでも増やせる(貸せる)からです。
与信というシステム(つまりは通帳残高の増加)を使うことにより、融資をするときに銀行はそれに対応する紙幣を持っている必要がないことは重要です。

このような仕組みのため、お金を貸したからと言って、市民から預かった預金が、右から左に流れていくわけではありません。
従い、「銀行は使う予定のない高齢者の余ったお金を預かって、それを、今すぐお金を使う必要のある人に融通して経済を潤滑にしている」という説明は正しくありません。
誰かの余ったお金を融通しているのではなく、与信により新規に作ったお金を利用者に配布しています。

どうでしょう。いまひとつ納得感がないと思います。では、「働かなくても無限にお金が増えるのは直感的におかしい?」というモヤモヤの元は何なのでしょうか。

おそらく、それは、個々の融資はゼロサムにして閉じなければならない(完済する)のに、信用創造には終わりがなく、常に印刷されたお金よりも大きなお金が世の中に存在していることではないでしょうか。
融資は返済される前提で成立するシステムです。最後には膨らませた融資残高を閉じてゼロに戻さなければつじつまが合いません。その時点で信用創造もゼロに戻るはずです。

しかし、いつの世の中でも住宅ローン残高がゼロになったことはありません。日本全体で見れば、誰かが返しては別の誰かがまた借りて、常に多くの融資残高が残ります。
そのため、日銀が印刷した大元のお金よりも、常に信用創造により作られたお金が多数となり経済が回っているのです。

19 消費者金融との違い

お金を貸すのは消費者金融も同じです。消費者金融と銀行は何が違うのでしょうか。
ひとことでいえば、信用創造機能の有無です。

消費者金融などは、どこかから調達してきた現金を誰かに現金で手渡して、おしまいです。右から左です。
そのため、世界に出回るお金の量が増えることはありません。
消費者金融は他人に「与信」を与えることはできないのです。ここが消費者金融と銀行との最大の違いでしょう。
彼らは銀行とは似て非なるものであるので、ノンバンクと呼ばれています。

では、なぜ銀行にだけ信用創造で与信を与えることが許されるのでしょうか。これは単純に「銀行業免許」という国家公認のシステムの力です。

この免許は、よほど信頼できる事業家でない限りは取得することはできません。
むやみに権限を与えてしまうと、零細銀行がお金を持っていないのに融資を乱発して最後に帳尻が合わなくなるからです。
融資は、必ず返済してもらい貸出のポジションを閉じて信用創造のシステムを正常に稼働させなければなりません。
また、貸し倒れが出た際には自己資本を切り崩して穴埋めしなければいけませんのでバッファとなる大きなお金が必要です。
それができると認定された、一部の大企業だけに銀行業免許は与えられます。

20 銀行と日銀の会計仕訳

会計が分かる人に向けてもう一段、踏み込んだ説明を追加しておきます。

知っておくべきは、銀行から見ると、預金は他人から預かった返済義務のある借金ですので負債に入ることです。
では、預金が入ったとき資産の部では何が増えるのでしょうか。通常は、日銀当座預金が増えます。日銀当座預金は企業の銀行預金に相当する預金だと考えましょう。
日銀当座預金には信用創造機能はありませんので、ここに入るお金は、紙幣と同等の価値を持つ預金(本源的預金)だけです。

なぜ、融資で増やした預金(派生的預金)を日銀当座預金に入れることはできないのかを考えてみましょう。融資は貸付金として資産の部に計上され、その相手勘定科目は普通預金です。
融資により発生した普通預金は常に貸付金にひもついていますので、日銀当座預金の増減には影響できないことが分かるでしょう。

なお、本来的には貸出の原資として最初に預金を集める必要はありません。実際、海外には預かっている預金額を超えて貸出をしている銀行も存在します。しかし、日本では、実務上は、
じつは、銀行の手元の現金(近所のおじいちゃんから預金として預かったお金)が底を尽きても銀行は倒産するわけではありません。
銀行には信用がありますので、その看板を使って、よその銀行や金融会社からお金を借りて、それを自行の顧客に貸せばいいのです。
しかし、よその業者から借りてくると借入コストが高いので儲けが出ません。一方、預金の金利はほぼゼロですので、銀行からすれば無料で貸し出し原資を集められることに近いです。
そのため、預金を又貸しした方が理にかなっています。この状態が長く続いたので、ほとんどの場合において、預金を集めるのが先、そのお金を貸し出すのが銀行の仕組み。と説明されているのではと思います。

銀行間で送金した時の仕訳も考えてみましょう。銀行間の決済は、日銀当座預金の増減で行うので、他行宛振込が発生すれば、当行の普通預金が減る=日銀当座預金が減る、となります。
そう考えると、厳密には、預かったお金を貸しているのではなく、貸して他行に出金されてしまうと日銀当座預金が減ってしまうのでその穴を埋めるために新規の預金集めが必要だといえるでしょう。これが、金融機関が熱心に年金を集めたり、定期預金を営業する理由です。

このように、他行振り込みは、当行にとってはありがたくない話であるわけです。その一方で、振込を受けた他行から見れば、普通預金が増える=日銀当座預金が増える、となりますので、じつは日本全体では変わりません。
これは、よく考えれば当たり前のことです。資金移動をしただけで、経済全体で見た時のお金が増えたり減ったりするわけはありません。
銀行単独で見ないで日本全体で考えると分かりやすいと思います。もしくは、同一銀行の支店間の送金のように考えるといいでしょう。

このように、日本全体で見れば、他行に振り込んだからといって、派生的預金が本源的預金に化けることはないのです。
そのため、日銀当座預金に入れられるのは、政府が最初に作ったお金だけであることが分かるでしょう。
それゆえ、マネタリーベースの定義も日銀当座預金+現金であり、日銀当座預金と現金は等価なのです。

会計が分かる人は、損益計算書についても考えてみましょう。貸出金が返ってこなくなったときに穴埋めに使われるのは自己資本であることが重要です。
自己資本以上に毀損すると、損失の穴埋めとして市民から預かった本源的預金を使うことになってしまいますので、それは阻止しなければいけません。
この約束が守られないと融資バブル崩壊となり、銀行の自己資本に穴があくわけです。

21 信用創造と信用取引

株が分かる人に向けて別の説明を加えておきましょう。信用創造は銀行が投資家になった信用取引だと考えればわかりやすいと思います。

融資とは、つまりは、自己資本を貸し倒れ時の損失吸収バッファ(≒証拠金)として、銀行の責任においてレバレッジをかけて、利回りを乗せて返してくれそうな人にお金の利用権を与えているわけです。いつか返済してもらう前提において投資していると考えると実態に近いでしょう。

そして、融資に回っている貸出金はお金ではなくて与信(信用残高)だと考えてみましょう。実際、融資を受けても一万円札の束を受け取ることはありません。通帳上に与信の数値を与えられるだけです。
この数値上でビジネスをして利益を生んで、食料やシャンパンに換えるのは儲かった時だけにしてください。というわけです。差金決済のようなものですね。

従い、貸出金(派生的預金)は、一時的に開いている信用取引の建玉のようなものですので、日銀が最初に印刷した実態のあるお金(根源的預金)とは違います。それを日銀当座預金に入れることはできないことも分かるでしょう。

しかし、ここで信用取引と違ってわかりにくいのは、借りたお金を自由に引き出せてしまうことでしょう。信用取引で買った株に対して、証拠金を入れずに現引きできている状態です。
融資金を引き出して先にシャンパンを空けてしまうこともできるわけです。

株の取引になれている人から見れば、これは、最後には破綻する危険な取引のように思えるでしょう。しかし、冷静に考えれば、借りたお金は債務者のものですので、自由に使えるのは当たり前なのです。
お金には色はなく、銀行内部でも融資金と本源的預金で分別管理されているわけではありませんので当然にできてしまいます。

これは、融資には厳しい審査があるので、誰にでも与信を与えるわけではない。そのため、先に現引きされてシャンパンになってしまったとしても、最後には返してくれる信頼関係で成り立っていると考えてください。文字通りの信用取引です。

しかし、これが行きすぎると問題です。融資によるレバレッジは、ほとんどの人は、自分のお金を銀行に預金したままで、現金化することは希であるという習性を利用しているためです。
債務者の多くが預金をやめて、紙幣を手元に置くことを試みると、国が最初に印刷した紙幣量以上を同時に引き出そうとする状態が発生します。

一時的に、信用取引のレバレッジ部分を現金化されて引き出されてしまうだけならば、銀行で余っているお金をあてがえば良いですが、これが増えると、銀行の余ったお金が底を尽きて引き出しができず、計算が合わなくなってしまいます。従い、個人金融資産 1,800兆円もすべてを引き出して食料や金塊に変えることはできません。

これだけの複雑な仕組みを、社会の教科書では「信用創造」として、さらっと1行で説明しているだけなので、分かるわけがありません。

融資をする。貸出金が増える。預金が増える。銀行の操作だけで勝手にB/Sを増やせます。信用創造の正体は、最後につじつまが合う限りは(規制はあるが)銀行の判断で好きに与信を与えて良いレバレッジの部分といえます。

金融資産統計
これらもバーチャルなものであることは知るべきでしょう。金融資産1,800兆円のすべてを解約して同金額分のパンやワインに換えることはできません。資産が売却されないてことを前提に成立している価値だといえます。

22 預金準備率と貸しすぎ防止

無限にお金が増えることの規制

銀行が「与信」を企業に与えて通帳残高を増やせば、みんながお金を使えるようになります。それが信用創造です。
それならば、どんどん与信を与えて、お金を増やし続けて、それを米ドルに両替して、世界中の土地や鉱山を買いまくればいいのではないでしょうか?
誰でもそう思うはずですが、「与信」でどんどんお金を増やす、信用創造というシステムには、重大な副作用があります。

信用創造に何の規制もなければ、銀行の勝手でお金が無限に増えてしまい、政府のお金に対するコントロールが利かなくなってしまうのです。
そのため、政府は「預金準備率」という制度を作りました。

その制度では、預金総額のx%を日本銀行に保証金として預けてください。ということになっています。
これにより、実質的に、「元々、近所のおじいちゃんから預かった「本当の預金」の5倍とか、10倍までしか融資を出してはいけません」という制限がかかることとなります。
いまの規制によれば、「本当の預金に対して」中国では5倍(20%)くらいまで、日本は100倍(1%)くらいまで貸してOKです。

この、日銀に預けるお金は、銀行の自分のお金である「自己資本」または「元々、近所のおじいちゃんから預かった本当の預金」のどちらかでなければいけません。
貸付により生まれた「もともとは存在しなかったはずの信用創造により増えた預金」は使えません。
(上級者向け注釈:自己資本や本源的預金はBS上、日銀への預け金に使えるが、融資により生まれた派生的預金の貸方は貸出金なので、日銀に預けるお金としては使えない)

さて、なぜ「預金準備率」という制度が必要なのでしょうか。それには2つの理由があります。

「もともとは存在しなかったはずの信用創造により増えた預金」が世間に出回りすぎると、カネ余りバブルになるため規制が必要だからです。
言うなれば、世界にあるモノ(富や財)の量は全く変わらないのに、やたらお金ばかりが増えると、お金が余り、ありがたみが減ってしまいます。
そうなれば、中小企業の社長が証券や不動産で博打的な投資をしたり、銀座で無駄遣いをしてあとで返せなくなり、破綻して「不良債権」が生まれます。

銀行から借りたお金は、将来的にきちんと返ってくることが非常に重要です。
このお金が返ってこないと、銀行が困るのです。
借りた社長は適当に破産手続きをして、実家に帰れば済みますが、
銀行は、近所のおじいちゃんや、設立に賛同して出資してくれた株主から与えられた大事なお金を毀損してしまいます。

別の問題もあります。あまり銀行の手元にお金がないのに「残高の記帳された通帳」を発行しすぎると、
預金引き出しが集中してしまったときに払えるお金がなくなり、業務停止してしまうことも心配です。
これは、正月にみんなでHAPPY NEW YEARをやると、携帯の回線がパンクするのと一緒で、もともと銀行のシステムも、みんなが一斉にお金を引き出すことは想定していないのです。
ただし、これ(流動性の枯渇)はたいした問題ではありません。
一時的なものであれば、通常は、銀行の銀行たる日本銀行が適当に資金供給をして救済します。

※教科書的には、このような説明となりますが、実際には、「預金準備率」を気にしている銀行はどこにもありません。では、何を気にしているのか?それは次のBIS規制に関係しています。