2021/05/23

玉川陽介 日本経済解説(日本の金融システム編-DVP決済)

11 証券会社の決済システム

証券取引所で約定した私たちの取引は、その後、誰がどのように処理して、証券が相手方に引き渡され、資金を受ける流れになっているのでしょう。
たとえば、複数の相手と同時に約定したとき、どのような内部処理が行われているのか。このようなことは知らなくても、それらを安全に執行する機関がありますので取引で不利益を被ることはありません。
しかし、そのような裏方の役割と意味合いを知らなければ、その取引が本当に安全で安心なものなのかも分かりません。
個人の直接的な取引相手は証券会社ですが、そこから先の見えないルートについて学ぶことが金融経済市場を深く理解する第一歩なのです。

契約と決済の違い。日本証券クリアリング機構と証券保管振替機構(ほふり)について知っておきましょう。

証券決済の仕組み

証券会社の取引画面で約定と表示されたあと、資金と株券はどのように交換されているのだろうか。ちなみに、株券は電子化されているので現在は株券自体が存在しない。

契約と決済は別という基本理解

じつは、証券取引所での注文が約定したのは、株の売買契約にサインしただけの状態でまだ金銭のやりとりは発生していない。その後、それにもとづいて売買代金を現金で支払う。これを決済という。
日本株の売買は、日本証券クリアリング機構という組織により決済が行われていることを知っておこう。

決済で最も大事なのは、支払代金を取りはぐれがないことである。また、払った対価を確実にもらえることである。それは容易に想像が付くだろう。希望の値段で約定して、代金を払ったのに株券がもらえないのでは市場は大混乱で成立しない。

そう考えていくと、理想的な、決済とは、約定した瞬間にリアルタイムで売り方と買い方がモノとカネを同時に引き渡すことだ。ドリンク自販機のような支払いと引き渡しだ。これをリアルタイム・グロス・セトルメント(Real-Time Gross Settlement =RTGS)という。これ以上に安全な方法はない。

図版34 証券決済の全体像の構造図

しかし、現実には、大量の資金が金融機関を往復し続けることは資金管理やシステム上の問題がある。

たとえば、1株1万円の上場株を100単位、計100万円の売却をしたとき、約定した瞬間に、買い手となった複数の人から、売り手の銀行口座1万円が計100回振り込まれてきたら銀行のシステム負荷も大きいし入金確認も大変だ。振込手数料もかかる。

また、fxや国債の取引では、何千億円という金額が動く。買いが入ったと思ったら、その次の瞬間に売られてしまったら、金融機関の残高は乱高下することになり、いくらの現金引き出しに備えればいいのか分からない。

なので、証券決済の基本はツケ払いが基本

一日でいくらの買い(現金支払い)、売り(現金受け取り)損得があったかを相殺(ネッティング=グロスの対義語でネット)する。
100万円の買い、同日に90万円の売りをしたなら差額の10万円だけ払えば良い。
そして、売買代金の受け渡しは数日後だ。(多くは3~4営業日後)
そのツケ払いを確実に履行させるためにクリアリング機構という管理者がいる。日本では、日本証券クリアリング機構が有名だ。

決済(セトルメント)について詳しく考えてみよう

取引所は匿名同士の取引、誰が誰にいくら支払うかを確定させるまでが仕事だ。
ここで相手が確定すると、支払いに遷移するが、支払いには相手の信用力の問題がつきまとう。売り手が年金基金や大銀行であれば、取りはぐれる心配はないが、相手が学生個人投資家なら本当に払ってくれるのか、株券を引き渡ししてくれるのか、ちょっと心配である。このような、取引相手に起因するリスクをカウンターパーティリスクという。

このようなリスクを吸収するため、金融市場の当然の対応として、相手の信用リスクにより売買価格が変えることになる。しかし、同じトヨタの株でも、機関投資家相手と個人相手では売値を変えるなどすれば、(普通のネット証券の画面のような)オークション方式の売買市場は成立しない。

ほふりと日本証券クリアリング機構

このリスクを吸収するために、先に株券は信頼できる機関に預けましょう。というルールになっている。
証券会社に預けると倒産されたときに困る、証券会社の保有名義になってしまう、証券会社同士を高信頼ネットワークでつながなければならない等、やっかいなので、証券保管振替機構(ほふり)にまとめて預けることになっている。ほふりや日本証券クリアリング機構は金融庁の管轄であり、ほぼ公共企業であるため潰れない。

安全安心のほふりに預けてしまえば、株の取引は、原則としてほふり内部のコンピュータのデータを書き換えて、株の所有者を変更すればいいだけである。売買証券の引き渡しはデリバリーなし。単なるデータ上の振替であるので保管振替機構。そうすれば、学生でも大銀行でも相手は誰でもカウンターパーティーリスクは変わらない。そのような便利なシステムになっている。

ほか、クリアリング機構は、オプションや先物の精算期日(SQ)に精算価格を計算して権利行使に係わる精算業務を行ったり、デリバティブの売買に必要な証拠金を計算、(SPAN証拠金についてはX章で)、売り建てした株の買い戻し義務日までに株を調達できなかったなど契約違反(フェイル)をした投資家に対してペナルティーを課したりする。

このような、クリアリングシステムのおかげで、年金基金が株を売って現金化し、高齢者に支払いをしようとしたところ、株の買主が信用のない学生投資サークルだったために資金が入金せず、年金の支払いが滞るなど、冗談のようなことは起きない仕組みになっている。

年金の支払いならば、まだいいが、株を売った代金を当て込んで、その入金前に別の株に買い換える投資家もいるため、そのような場合、大元の資金の入金がなければ、その先の取引も連鎖して成立しないことになり、市場は大混乱となる。このような金融取引の連鎖が崩壊するリスクをシステミックリスクという。

売却益で違う株を買って売る=決済の仕組み上キャンセルできない

個人投資家として著名なcis氏はジェイコム株の誤発注事件で莫大な利益を出した直後、次のような取引をしている。
「そこで生まれた数億円でみずほフィナンシャルグループと任天堂の株を売買した。もしもジェイコム株の売買が無効とされた場合はこの取引も不可能だったことになる。お金がどこか空中から来たことになってしまうから。」
cis.一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学(角川書店単行本)(Kindleの位置No.436-438).株式会社KADOKAWA.Kindle版.

これは、仮にcis氏が誤発注で得た数億円が「誤発注だから」という理由で強制取消となった場合、その後に約定した取引は「空中から来たお金」での取引となり、つじつまが合わず、金融取引の連鎖が崩壊した状態となる。
システミックリスクと同種の状況を作り出すことにより、巻き戻しのできない取引に仕上げたと推測できる。このようなひらめきも証券決済システムの裏側を理解しているがゆえのものといえるだろう。

この際、ジェイコム株を誤発注で売ったみずほ証券は、市場に存在する株数の何倍もの売りを約定させてしまい、当然にそれを買い戻すことは理論的に不可能で債務不履行が確定。そのため、日本証券クリアリング機構が割って入り強制決済を行った。

もちろん、個人では、入力の間違いにより手持ち資金の何倍もの損を出すことはシステム上の防止策があり簡単にはできないが、機関投資家の信用があったからこそ発生した事件ともいえる。

決済をフェイルさせない。カウンターパーティーリスクをなくすための仕組み

それ以外にも、クリアリングシステムのおかげで、取引の相手方が倒産して払えない場合や、
先物価格が暴落して取引相手が追加証拠金を支払えない(先物の儲けが出た人に払う人がいない状態)などは機構が代弁することにより不払いは起きない。

どのようなときに不払いが起きるのか、日本で有名な事例は、東日本大震災のときにひまわり証券経由で日経平均オプションを売っていた顧客が約80億円の損失を出した。
https://jp.reuters.com/article/idJPnTK056587620110330
個人では損失を払いきれなったためひまわり証券が全額を支払った。しかし、その際に証券会社も支払えないほどの巨額損が発生していたとするならば、クリアリング機構が損失を穴埋めし、証券会社に徴求、さらに証券会社から個人へ徴求という流れになるはずである。

このような予期せぬ事態が発生した際にも正常に決済を完了させ、損失の穴埋めを保証することによりカウンターパーティーリスクをなくし、システミックリスクを防ぐのがクリアリング機構の役目だといえる。

実際の決済例

実際には、日本株の受け渡しと代金支払いはT+2である。TはTransaction date、+2は2営業日後の意味。つまり本日+2日後であるので、現金が引き出せる日は、株を売った日から2日後である。(2019年以前はT+3だったが短縮された)

主要なPTS(私設取引システム)で取引した現物株も日本証券クリアリング機構で決済される。
出金はT+2だが、その決済前に売却金を別の株の購入資金にあてて購入することはできる。売却金は、日本証券クリアリング機構により資金化されることが保証されているので、それをあてこんで次の株の購入資金として使っても、入金のあてがはずれることはないので理論的にも何ら問題は生じないというわけだ。

保管振替機構

さて、支払いが済んだら、株券を受け取らなければいけない。株券(といっても電子化されているのでデータ)は、ほふりが管理している。そのため、日本証券クリアリング機構からほふりに対して、決済が完了したから株券名義の変更してね(所有者データの書き換え)という依頼して完了である。

複数の上場会社から出る配当金をひとまとめにして個人の銀行口座に入金処理するなどもほふりの仕事である。
ほふりで日本株の株主名簿が一元管理されていて個人名で名寄せすることが可能だからできる。株主リストを上場会社に提供するなどの仕事もしている。

DVP決済とはそういうこと!DVP決済の概念はとても重要!

購入代金も株券も先に機構に預けておけば、その資産の範囲内で自由に取引ができる。
カネもモノも機構が一元管理しているので、カネを払った(Payment)のにモノの配達(Delivery)が来ないなどは発生しない。

カネの残高引き落としと株券の名義データ書き換えを同時にして実質的なリアルタイム決済をしているというわけだ。このような決済のやり方をDVP決済(Delivery Versus Payment)という。

言われてみれば当たり前の取引保護のスキームだが、不動産などでは、代金を支払ったが土地が手に入らない詐欺などがいまだに横行していることを考えると、決済システムの信頼性が大事なことが分かるだろう。

決済システムについてのおすすめ本

この本を読んでおけば間違いないです。
決済システムのすべて 単行本 – 2013/2/1
中島 真志 (著), 宿輪 純一 (著)