2021/06/20

玉川陽介 日本経済解説(大企業の経済活動)

第1部 日本のマクロ経済編

大企業の経済活動

先進国を成立させるには、お金を循環させて各企業が利益を出し、それを給与として労働者に分け与え、個人はそれを消費にあてる循環が必要です。
このような循環を経済システムと呼んでいます。

経済を理解するためには、お金の入口である企業活動の理解が欠かせません。日本では、お金の源泉は輸出、それを作り出す人たちの生活が内需です。
近年の日本の産業構造は、小学校の社会で習った時とは変わっていることも多い点に注意しましょう。
いまや日本の産業は「加工貿易」では説明が付きません。先入観を持たずにひとつずつ読み解いていきましょう。

図版9 企業活動の全体像

実体経済とは

実体経済


経済ニュースでよく出てくる用語のひとつに、実体経済という言葉があります。実体経済とは何を指しているのでしょうか。

経済の善し悪しを計る方法として、定量、定性の二つの切り口を考えてみましょう。定量尺度は、企業の利益額や新規事業への投資額、個人の消費額、給料の額、仕事を見つける難易度などです。一方、定性面は、タクシーの運転手、一般サラリーマン、中小企業の経営者など、経済に関わる人々が景気が良いと実感できているかなど、気持ちの問題と考えれば良いでしょう。

金融経済

ここで重要なのは、実体経済の定義として、銀行や証券、土地取引など、実態の変わらない経済活動は考慮しない点です。
これらの経済活動に実態がないわけではなく、規模も大きいのですが、あくまで金融市場における資本移動、投資活動であり、一般の経済活動とは一線を画するという点で除外されています。金融経済ともいわれます。

従い、マンション価格や株価の上昇、銀行から融資を得るのが容易か否か、などは資産価値や金融の話ですので実体経済ではありません。このように考えると、実体経済なくして金融経済は成り立たないことも分かるでしょう。証券会社と土地取引ばかりの国では企業活動も生活もできません。

本章では、日本の実体経済について深掘りしていきます。また、銀行証券や不動産など金融市場の話題はX部で解説しています。

日本の主要産業

日本の実体経済の大黒柱となる主要産業は何でしょう。
投資家として産業を見るときに考えなければならないのは、どれだけのお金が動き、どれだけの利益につながっているかです。これらは、従業員数よりも重要な指標です。

また、現代社会では自給自足は困難ですので、外貨を稼いで生活必需品や生産材料を輸入する必要があります。どの産業が外貨を稼ぎ出しているのかは頭に入れておく必要があるでしょう。

その点を踏まえて、金額ベースで日本の産業を見てみましょう。
金額ベースといった場合、通常はGDPに占める産業分野ごとの比率を見ていきますが、投資家が産業を見るときは上場株の時価総額ベースで産業比率を把握すればいいでしょう。

ここでは、東証第一部上場株の全銘柄であるTOPIXを分析することにより、日本の産業構造を見ていきます。
TOPIXには日本の上場株式の時価総額の95%以上が含まれますので、ほぼ全体と考えて構いません。

TOPIX銘柄の時価総額

2019年7月現在
TOPIX銘柄の時価総額をGICS(Global Industry Classification Standard)で分類して筆者集計

自動車産業

東京に住んでいる人は、トヨタ(愛知県)が日本最大の産業であることは、頭では分かっていても生活実感とはことなるでしょう。それでも、令和の日本においては、なんといってもトヨタをはじめとする自動車が日本の主要産業です。その部品である鉄鋼、タイヤ、電子機器も周辺産業と考えれば、その産業規模はさらに大きなものとなります。

近年では、自動車は日本国内生産ではなく、東南アジアなどで現地生産している点がポイントです。

自動車業界の課題は、米テスラのような、電池とソフトウェアで駆動するハイテク電気自動車の台頭という技術的な変化、また、英仏が2040年からガソリン車、ディーゼル車の販売禁止を決めるなど社会の変化への対応だといえます。

産業用機械の製造

日本の産業には機械が多いことも特徴です。機械にもいろいろありますが、これに含まれるのはどのような製品のことでしょう。コンピュータ制御で精緻な造形工作を行う機器(NC工作機械)を製造するファナックは日本よりも海外で知名度が高く「よく知っている日本の会社」として、任天堂、トヨタと並んでファナックを挙げる外国人もいるほどです。

建設機械の事例としては、コマツのGPS付き油圧ショベルが有名です。一般消費者には知られていませんが荏原は世界的なポンプメーカーです。ポンプは水道の送水だけでなく、化学プラント工場で材料を定量注入するなどに使われます。

半導体製造装置と材料

大きな機械だけではありません。近年では、日本の主要産業のひとつとして、半導体製造装置や材料を挙げるべきでしょう。製造装置の大手は、日本の半導体製造装置の約半分を売り上げる東京エレクトロン、メモリテスター首位のアドバンテスト、ウェハ洗浄装置首位のSCREENなどが挙げられます。

主な材料としては、信越化学工業、SUMCOのシリコンウエハー、住友化学、富士フイルムの半導体洗浄液、それ以外では、レジスト(感光剤)、エッチングガス、封止材などを合計すれば日本の半導体材料は世界シェアで5割といわれています。
このシェアを見れば、2019年に起きた、日本から韓国への半導体材料の禁輸措置で、サムソンなど韓国の半導体企業が困るのは理解できるでしょう。

一方、半導体の完成品製造では、日本メーカーのシェアは、わすが10%程度にまで落ち込みました。
完成品は、台湾(TSMC)や韓国(サムソン)に仕事を取られてしまい、もはや追いつけなくなってしまったといえますが、いまだ、その製造装置と材料、部品では世界トップレベルのシェアを誇ります。

電子機器の部品

ソニーの積層型CMOSイメージセンサー「エクスモア」はiPhoneほか世界のスマートフォン用カメラ部品として有名で、同型センサーでは世界シェア5割といわれています。また、日本勢は、パワー半導体といわれる電流の変換(インバーター)などを提供する半導体部品も得意で、三菱電機、東芝、富士電機などが世界市場で健闘しています。

エレクトロニクス製品

東芝、ソニー、パナソニックなどは、エレクトロニクス、ハイテク企業といわれています。これらの会社は、一般消費者にもなじみ深いでしょう。

エレクトロニクス製品の例としては、歴代プレイステーション、任天堂ゲーム端末が日本の代表選手です。ゲーム端末は世界で10億台以上を売上げ、日本といえばゲームと認識している外国人は少なくありません。

もちろん、パナソニックや東芝など、日本の家電は世界中に輸出されています。ただし、エマージング諸国(発展途上国のなかで経済成長の著しい国)の家電売り場では、日本製よりも韓国製が目立つ点は認識すべき点でしょう。筆者はさまざまな国の家電売り場に足を運びますが、多くの場合、海外では、日本メーカーよりもサムソンをトップメーカーとして取り扱っています。

図版10 フィリピンのショッピングモール
サムソンの展示コーナーは一昔前のソニーを彷彿とさせるデザイン

サムソンのブランド展開の早さに負けただけでなく、日本メーカーの得意な高付加価値、高価格路線が新興国市場では裏目に出ています。新興国では、月給が3~6万円と日本よりも一桁低い人が多いため、高価できちんとした日本製よりも、安価で最低限の製品が好まれているのです。
そのため、韓国製品、液晶テレビの、 白物家電のElectroluxなど欧米系の格安メーカーとは価格勝負で競り負け、日本メーカーは、新興国市場でのシェアを取り逃している感があります。

医薬品

武田薬品をはじめとする製薬も、国内では大きなウエイトを占めますが、世界では日本の製薬会社は小規模で小粒だといわれています。
じつは、日本最大の製薬会社、武田薬品ですらも、世界市場では15~20位の規模に過ぎません。研究開発に莫大な体力を要する製薬企業において、規模の小さな日本企業は苦戦しているといえます。

日本のお家芸とは

このように、日本は、自動車、機械、エレクトロニクス製品を輸出して外貨を稼いでいる国と認識してもいいでしょう。このような日本が得意な産業分野を「お家芸」と呼んだりもします。

参考
ロイター
2019年7月1日
韓国向け半導体素材3品目、輸出管理強化 「ホワイト」国除外も

トウシル 2018/6/22
特集:半導体製造装置(東京エレクトロン、SCREENホールディングス、アドバンテスト、ディスコ、レーザーテック)

日経新聞
半導体材料とは 日本企業、シェア5割との試算も
2019/7/2付

2018年版 半導体市場動向
2018.10.16 東京電機大学非常勤講師 群馬大学協力研究員 中谷隆之

輸出と為替レート

想定為替レート

このように、日本の主要産業は、輸出ありきの製造業です。そして、日本の実体経済ではそれが大きなインパクトをもつことがわかります。
そのため、日本円ベースで見たときに売上げが目減りする円高は輸出業だけでなく日本経済全体の天敵となるわけです。

それを意識して、輸出各社は想定為替レートを発表しています。たとえば、「トヨタは今季の為替レートを110円で見ています」などと各社は事前に公表するわけです。

為替ヘッジ

このような為替の騰落により、せっかくの利益がかき消されてしまったのでは安心して製造できません。金融市場が実体経済に悪い影響を与える状態です。

もちろん、それを避けるために、日本では、6割超の輸出企業が為替ヘッジをしています。しかし、ヘッジの方法はフォワード(先渡取引)といわれる取引がほとんどのため、その効果は数ヶ月程度までで、最終的には円高の悪影響を受けることになるといえます。

デリバティブ商品で強めに保険をかけたとしても、保険料が高くつくため、ヘッジをしたとしても円高は輸出企業のコスト要因です。そのため、現在の株式市場では円高よりも円安が歓迎されているというわけです。

参考
独立行政法人経済産業研究所
日本企業の為替リスク管理とインボイス通貨選択 「平成25年度 日本企業の貿易建値通貨の選択に関するアンケート調査」結果概要
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/16j035.pdf

製造業と産業の空洞化

人件費高騰による産業の空洞化

日本の基幹産業である製造業ですが、じつはその多くを海外で生産しています。それはなぜでしょうか。
機械化が進んでいるとはいえ、それでもなお、工場には大量の人員を必要とし、人件費は製造業の大きなコストとなっているからです。

そのため、製造拠点は人件費の安い中国へ。中国の人件費が高くなったのでベトナムへ。人件費の安い地域を求めて製造業は生産現場を移動します。

このように、日本国外に製造現場を持つ企業が多いため、日本国内でモノを生産する企業が減り、マクロ経済の視点では産業の空洞化といわれています。これは、社会の授業でも習ったとおりでしょう。

製造現場が日本にあれば、本来は、日本人が雇用され、その人たちのための衣食住経済が生まれたはずです。しかし、工場が海外となれば、その波及効果がすべて海外に行ってしまうため日本経済にとってはいいことではありません。

米トランプ大統領が、多くの米製造業に「製品は米国内で作れ!」と檄を飛ばしているのも、これが理由です。

アジア人件費の高騰と中国バブルの一巡

近年では、中国ほか発展途上国の人件費が上がったことにより、それらの国で品質の不安定な現地人を使って製造するよりも日本に戻る選択をする企業もあります。

中国は消費国として無視できない存在ですが、そこで市場シェアを拡大しようとする中国シェアの拡大競争が一巡したことも影響しているでしょう。

現地生産に対する非課税措置

産業の空洞化といえば聞こえが悪いですが、企業視点でいえば、現地法人による現地生産と呼ばれる、よくある生産方法です。
販売国の現地で自動車などを作れば現地で輸入扱いにならないため関税がかからない、海外現地法人で上げた利益は日本に納税する義務がないなど利点があります。

設計費用や事務オーバーヘッドがなく、現地で作るだけならば粗利が出るのは当然といえるでしょう。
その後、現地法人で生まれた粗利は配当などの形で日本国内へ環流(リパトリエーション)し、実質的に日本企業の利益になっています。

日本政府も環流を促進するため、配当として日本の親会社に送られた利益に対しては、ほぼ無税の特別措置をとっています。
お金がそのまま海外に流出したままになるよいですが、その一方、大企業に税金がかからない理由のひとつとなっており、隠れた日本の経済問題となっています。(詳しくはX章)

内需と外需

主役は内需か外需か

日本経済は内需が6割といわれ、経済規模だけでいえば、海外との取引よりも日本国内が主役だといえます。

内需にはどのような産業があるのかを見てみましょう。
通信、銀行、鉄道、食品、不動産などは輸出産業とはことなり、主に日本国内の需要による産業です。

では、これだけの内需があるのだから、それをもっと増やせば為替や貿易収支を気にせず気楽に生きて行かれるのではないか。そう考える人もいそうですが、実際にはそうはいきません。実際の経済活動は、内需、外需と分け隔てがないためです。

すべての経済活動は、サプライ・チェーンや波及効果としてつながっているため、現代の日本では、外需なくしては経済が成り立ちません。その発端となるのが外需だと考えればいいでしょう。

たとえば、トヨタの輸出工場があれば、そこに勤務する人の個人消費、地元の商店街などが成立する。トヨタがなければ地元の商店街は継続できない。ひいては、トヨタの輸出がなければ日本経済全体が成り立たないかもしれない。という考え方です。

少なくとも、日本国内で消費しきれない余った財を輸出に回していて、外需はおまけ。というわけではありません。このような考え方より、日本の内需はその規模が大きくても、主要産業とはことなる副次的な扱いです。

減りゆく内需

しかし、内需がGDPの6割と大規模であるため、その動向は注目すべき点です。内需は、人口減少により産業全体の顧客が減る傾向にあることがポイントです。少子化になれば塾の売り上げず減るという説明が最も分かりやすいと思いますが、経済全体を見れば、重要なのは塾ではなく、食品、不動産など規模が大きな産業への影響でしょう。

食品も人口減が売上げ減と相関のあることは想像が付くでしょう。富裕層でも食費の額は大きく増えるわけでありませんので、食べる人数の寄与率が高いといえる業界です。農水省農林水産政策研究所は、2050年には日本の食料消費量は4割も減少すると予測しています。

また、人口減少により、主に地方部で空き家が増える、空き家問題も不動産業界では懸念される社会問題のひとつです。

参考:
ロイター
2014年7月24日
2050年には日本の食料消費量は4割減少の可能性

オールドエコノミーとニューエコノミー


図版11 産業分類の時価総額ツリーマップ 見開きで

日本の会社を違う切り口で見てみましょう。
図は日本に上場しているほぼすべての企業(TOPIX)を業種別に分類して時価総額をツリーマップの面積にしたものです。日本にはどのような業種があるのでしょうか。

古くからある昭和の会社、オールドエコノミーと、いま風の会社、ニューエコノミーを比べてみましょう。

オールドエコノミー業種

オールドエコノミーとは

オールドエコノミーとは2000年のIT革命以前から存在した大企業と考えればいいでしょう。
自動車と自動車部品、医薬品、銀行、産業用機械、鉄道、商社、食品、不動産などはオールドエコノミーと分類されます。帝国繊維、大日本印刷のような会社名で戦後に創業した会社などが、もっともイメージに近いでしょう。

戦後の日本には、倉庫、材木、運送会社のように、広大な土地を使うビジネスが多くありました。いまは拠点縮小などの理由で、そのような土地が遊休地になっていることがあります。

そのため、オールドエコノミー企業は使っていない土地をたくさん持っていることもあります。その土地は、数十年前の安い時期に買っているため、決算書上は極端に安い仕入れ価格が載ったままであり、いま市場で売れば高く売れて大きな利益を計上できるという企業もあります。このような土地は、含み益が乗った資産という意味合いで、含み資産とよばれます。

日本的経営の特徴

オールドエコノミー企業では、終身雇用、年功序列、そして、投資家には関わりが薄いですが労働組合も特徴といわれています。しかし、近年では、転職が当たり前の労働環境となり、終身雇用の前提は崩れかけています。一方、年功序列はそこまで大きく変わっていないように思います。

なお、現代の労働組合は、賃上げ交渉の時に代表を務める程度で、企業活動に対するインパクトは大きくありません。政治的には、労働組合は、立憲民主党、国民民主党、など、旧民主党系の支持母体(いわゆる組織票)であることが重要です。

グループ会社制

オールドエコノミー企業は、持株会社制(ホールディングス)を採用していることが多いのも特徴です。
たとえば、事業実態がほぼない代表会社であるキリンホールディングスを上場させ、その親会社の下にキリンビール、キリンビバレッジなど、実際に事業をしている法人をぶら下げる形態になっています。各事業部を法人に分社化したようなグループ形態だといえるでしょう。

ニューエコノミー業種

ヤフーなどの総合ポータルサイト、楽天のようなEC、ミクシィやグリーなどSNSやゲーム、そして、LINEなど幅広く知られているサービスをはじめ、ディップ(求人)、ライフル(不動産)など特定分野のポータル、などPCやモバイル向けのサービスが挙げられます

あえて、ニューエコノミー業種の特徴を挙げれば、物的資産を多く持たずウェブサイトやユーザー数など無形の資産を多く持ち、ネット上でサービスを展開する企業といえます。

これらの企業については、多くの人がすでに知っていることだと思いますので最小限にしておきましょう。なお、GoogleやApple、Amazon、Microsoftなど外資企業も日本で営業していますが、彼らは日本企業ではなく、外国企業の日本支店の扱いです。

外国企業の多くは、法律上、日本支店を販売窓口としての役割に過ぎないため利益が出ていないとして税金を払わないことが多いことも、日本企業とは大きくことなる点です(詳しくはX章)

新旧業種の比重

日本では、財閥系、重工業、半導体製造設備などが経済活動の多くを占め、また、株式時価総額の大半を占めます。
それらの業種は、技術の蓄積や大規模な工場などを保有する必要があり、たとえば、自動車、エレクトロニクス、半導体など先端産業の製造現場は、一度、活動が途絶えてしまうと再開が困難であるといえます。

一方、日本のニューエコノミーは小規模な企業が多く、代替が利くサービスが多いことから、古い会社が退場すればそれを埋める新しい会社がすぐにシェアを取りに来るはずです。たとえば、ネット通販大手が倒産したからといって、日本からネット通販がなくなるわけではありません。社会全体で見れば新陳代謝が進んだともいえ、大きな問題にならないでしょう。

そのため、日本経済や金融市場においては、いまだにオールドエコノミーの動向が重要だといえるでしょう。

ニュー・オールドという区分けも金融市場でよく使われる区分というだけで、明確に決まっているわけではありません。
たとえば、NTTデータなどは先進的なITシステム開発が主業務ですが、旧来型の組織形態などを鑑み、オールドエコノミーと分類しても不自然はありません。

財閥企業

ここからは、日本独特の経済システムに踏み込んでいきましょう。日本の経済界には海外にはないいくつかの特徴があります。たとえば、日本の大企業は、財閥と呼ばれる企業グループを形成していることが特徴といえます。少数の企業体が日本経済において多くのシェアを占めています。

このような経済社会の勢力図は、日本だけで見られるものではなく、韓国の財閥(サムスンほか)はさらに寡占化が進んでいるといわれています。なお、財閥は通称名であり、登記簿や決算開示書類にそのように書かれているわけではありません。主要な財閥をおさらいしてみましょう。

三菱グループ

三菱UFJ銀行、三菱商事、三菱重工業などを中心とする三菱グループは世界最大の企業グループとしてその名をとどろかせ、創業者の岩崎弥太郎は金融経済とは無縁の人からも幅広く知られています。キリンビールなど、三菱の名を冠していないグループ企業も含めると、三菱グループの企業活動は日本のGDPの1割を占めるといわれています。

また、同社グループは国の中枢に関わる多くの仕事を請け負っていることも特徴です。
たとえば、三菱重工業は時価総額だけを見れば、釣り具のシマノと大差ありませんが、一般の民間大企業とは果たす役割がことなります。

三菱重工業は防衛省にも多くの車両など軍需品を納品するなど、日本の防衛にはなくてはならない企業といえます。この点だけを見ても、三菱重工業は特別な企業であり、外資に乗っ取られたり倒産することはないと推測できるでしょう。

写真 三菱重工業が製作して防衛省に納品したステルス戦闘機

さらに、三菱グループは日本で最も地価の高い地区のひとつである丸の内に広大な土地を保有しています。
東京駅前に位置する丸ビル(総工費581億円-土地価格を除く)をはじめ、三菱グループは丸の内に多くのビルを所有していることから、丸の内の大家さんといわれ、一帯は三菱村と呼ばれています。

※丸ビルの総工費
FACT BOOK 2014/3 第2四半期 – 三菱地所

三井と住友は三菱に次ぐ財閥グループ

三井グループは、三井物産、三井不動産などを中心とする財閥です。元は越後屋という屋号の質屋や呉服店がはじまりで、それが現在の三越になりました。
住友グループは、住友不動産、住友商事、住友金属工業などを中心とする財閥グループです。大阪が発祥であることから、威勢のいい社風といわれることもあります。

2001年に、住友銀行が、三井系のさくら銀行を救済合併して三井住友銀行としたことを皮切りに、両グループの提携関係が進んでいます。

三財閥の市場規模

三菱G(売上げ70兆円)、三井G(42兆円)、住友G(37兆円)、合計では149兆円を売上げており、3財閥の売上は、2015年の国内企業の総売上1625兆円の1割程度に匹敵します。

財閥以外にも、やや特別な企業は存在します。
松下幸之助が創業した松下電器が現在のパナソニックであることは経済人でなくても知っているでしょう。パナソニックのグループ全体売上げは8兆円を誇ります。その周辺取引、経済波及効果も含めれば、日本経済においての財閥企業などのシェアの高さを計り知ることができるでしょう。

日本を代表する優良企業への忖度

これらの企業の強さは、単純に規模が大きいだけでなく、国や大企業同士のつながりが強いことから、実質的に日本の権力中枢部を形成する一端だといえます。

これは、筆者の私見ですが、国は、財閥企業に対しては「民間の業者さん」という枠を超え、社会の公器としての役割を期待して特別扱いしている面もあるでしょう。これには、財閥企業が国の意向に従い、短期的な利益ばかりを追求せず、マナーの良い仕事をするという信頼や忖度(そんたく)があるからでしょう。逃げない、裏切らない代わりに、財閥企業は優先して国の資源を使わせてもらえるともいえます。

これは、競争入札の理念を考えると不公平な仕組みではありますが、単に価格だけの競争入札で、安かろう悪かろうの企業を事業者に選ぶのは国益にも反するわけです。
そのような点を鑑みると、実態として、財閥は国と提携している企業体だといえるでしょう。

そして、日本人の国民性的は、「ぽっと出」や「吹けば飛ぶ」ような企業を嫌い、「長いものには巻かれる」傾向であることから、ネームの良い大企業に信頼が厚く、この社会システムはうまく機能しています。

一方、新規参入の外国資本などからは、日本市場は公平性に欠ける、日本にはビジネスチャンスがない、などと批判されることもあります。外国資本から見れば、日本の大企業と政府の忖度など不透明なルールが参入障壁となっており、合理性と公平性に欠けるというわけです。

半官半民と特別な企業

財閥系以外にも特別な産業セクターがいくつかあります。自由市場のルールとは違った、特別な企業活動を理解しましょう。

図版12 財閥と特別な企業の図

電鉄系

2024年からの予定されている新紙幣では渋沢栄一が一万円札になることが決まりましたが、渋沢栄一は東急電鉄の創設者としても知られています。

西武鉄道の創業家である堤(つつみ)家も経済界では有名人です。
西武グループは、鉄道のみならず多角経営で、広大な敷地を保有するプリンスホテル、豊島園などのほか、プロ野球の西武ライオンズも同社の保有、経営です。

電鉄系企業は、鉄道敷設時の用地買収などにより、鉄道沿線に土地をたくさん保有しています。そのため、不動産開発もあわせて行うことも多くあります。
高度経済成長期、鉄道会社は自らが鉄道を整備し、原野に街を作りました。
それにより、ほぼ無価値であった土地に値段が付くようになるため、そこにマンションなどを作れば利益が出ました。

鉄道会社は、それを目論み、バブル期にはニュータウン開発を主導しました。
価格が暴騰した都心を避け、ぎりぎり電車で通える未開の地に、新しい街「ニュータウン」を作ったわけです。
多摩ニュータウンなども鉄道開発とセットになったプロジェクトだといえますが、バブル崩壊で目論み通りには進みませんでした。

軍需系

有事の際に重要な企業 日立など
IHI(石川島播磨重工業)製ジェットエンジン。JMUとは、IHI(石川島播磨重工業)、住友重機械工業、日立造船
保護されている産業 製鉄、自動車、船舶、重工業(石川播磨)

沖電気などは古くから電話交換機をNTTに納入し現在では自衛隊向け通信機器を納品するなど官需企業

資源備蓄系

資源や石油など国の運用に欠かせない物資を扱う企業も特別な企業です。
たとえば、JXTGエネルギー、出光昭和シェルなど石油大手には、国内石油消費の70日分を民間備蓄として備蓄しておく法的義務があります。

この備蓄は、輸入禁止や戦乱など有事の際に使うことを想定しているため、石油各社は、国の運営上、必要とされる企業であり、純然たる民間企業とはことなる保護と規制があります。

国営から民営化された企業

NTT(日本電信電話) 、JT(日本たばこ産業)も国有企業の民営化により成立している上場民間企業という歴史的な経緯もあり、NTT法、JT法など、これらの会社を特別なものとしている法律があります。たとえば、NTT社員は一部の業務においては公務員とみなされ贈収賄などが禁止されるなど、完全に民間企業になったわけではありません。NTT法は、同社の株主の1/3以上が外国人となる状況を禁止しています。

JR(東日本旅客鉄道)は組織形態としては株式会社であり民間企業ですが、こちらも純然たる民間企業とはことなり、保護と規制があります。ほか、特別な企業、半国策企業の例としては、電力会社、JALなど航空会社、フジテレビなど民放各社が挙げられます。

参考
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49884730X10C19A9MM8000/
技術流出防止へ外資規制強化 株1%軸に届け出検討

重要な企業を乗っ取りから保護

欧米系からの防衛

保護すべき日本企業には、外国政府や外資企業による乗っ取りを防止するための規定が存在します。
これは、国内インフラ、資源、有事の際に必要な製品などを作る企業の乗っ取りを防ぐための処置だといえます。

このような規制が具体的に想定しているのは、たとえば欧米系の投資ファンドが上場公共インフラ企業の大株主となった場合、ファンドの都合の良い経営方針に偏重して料金の値上げをしたり、国土やエネルギーなど日本の資源を利用した事業の利益が外資系企業に流れることです。このようなやり方をされると、国益や社会の安定が脅かされます。
欧米系企業のやり方として、最初は低価格、友好的に参入してシェアを獲得し、当該製品がなくては特定分野のビジネスが成り立たないなど、重要な地位を占めるようになれば、現地人の経営する製品代理店は閉鎖して本国が直営化し、大幅値上げをするというパターンが少なからず見受けられます。

中華系からの防衛

また、近年では、中華系企業の脅威を意識する対策が主眼に置かれています。
たとえば、官公庁や原発システムの設計図を手に入れて軍事転用やサイバーテロに利用するなどを懸念してのことです。信頼できない海外企業にインフラを任せること自体がセキュリティ上の脅威であるというわけです。

ファーウェイなどの中国企業が米国の主要なインフラ整備事業において利用禁止になったことは有名な事件です。

外資規制

このように、資本市場は完全な自由市場ではないことが重要です。
外国為替及び外国貿易法、通称、外為(がいため)法ほかで国益を損なう外資の侵入は管理されています。
逆を考えると、よく言われる、「これだけの円高なら、政府の資金で海外の鉱山でも買い漁ればいいのに」というようなプランは簡単ではないことも分かるでしょう。
米国をはじめ、外国にも同じような防衛策は敷かれています。

筆者の私見ですが、米国は、開かれた市場(オープン・マーケット)のイメージ戦略とは裏腹に、自国産業を保護するための外資規制を目立たないように巧みに導入しています。そして、その規制は、不公平といえるレベルのものが少なくない印象です。

規制による既得権益の批判

外資規制と参入障壁で安全安心な日本社会を守る。その弊害も忘れてはいけません。
「放送法による規制産業で競争がないから民放は給料が高い」などはよくいわれるフレーズです。テレビ局として新規参入したい事業者があってもチャンネル(電波)の割り当てがもらえないため、既存のテレビ局の既得権益化となっており、そのため競争にさらされることなく利益が出ることを意味しています。

日本経済には、国益や安全な社会などの大義名分のもとに、それに便乗する、天下り団体、業界団体など、既得権益者も守られていることも経済理解には欠かせない視点です。