2021/06/20

玉川陽介 日本経済解説(日本の貿易の特徴)

日本の貿易の特徴

日本は内需も多い国ですので、貿易がすべてではありません。しかし、波及効果やサプライ・チェーンなどの言葉からも分かるように、内需は外需と密接な関係にあり、海外取引なくして日本国内の経済は成立しません。その点では、貿易で必要な物資を確保し、さらに利益も確保するという活動は日本経済の要だといえます。

大企業が作った製品はどのように売られているのか
どこで外貨を稼いでいるのか
日本は何のために何を輸入している
そのような視点で日本の貿易を見てみましょう。


図版13 海外取引の全体像

貿易統計を読む

貿易収支だけを見ない

多くの人がイメージする貿易とは、日本の港から大型船で自動車や原油が輸出入される姿でしょう。それは間違っていません。実際、その損益は貿易収支として計算されています。

しかし、現代では、モノの作り方、利益の出し方は多様化しており、必ずしも港を経由した取引ばかりではありません。たとえば、現地法人が現地生産をして得た利益、海外企業のM&Aなど証券投資、特許料などの権利料などを加えて見る必要があります。そして、近年では、この割合が非常に高まっていることがグラフからも分かります。

従い、貿易収支だけを見るのは、木を見て森を見ずといえるでしょう。海外取引の全体像である経常収支をもとに日本の輸出入を見てみましょう。


図版14 経常収支
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2017/2017honbun/i2210000.html

すべての損益を通算した経常収支は、会社でいえば粗利です。
経常収支の計算ではが、日本の経常収支は常に黒字です。日本の貿易の強さと言えるでしょう。ひとことでまとめれば、日本は、資源を輸入に頼り、自動車や精密機器を輸出したり現地生産して、毎年、海外取引では黒字を確保している国です。

経常収支までもが慢性的に赤字化すると、財政赤字(プライマリー・バランス赤字 X章で解説)と合わせて双子の赤字と呼ばれるようになり財務的には赤信号となります。

製品の製造の複雑性を考慮する

貿易統計にはもうひとつ注意点があります。これは貿易統計が単純なモノの移動に着目した統計であるため多国間のまたがる分業が把握しにくい点です。

たとえば、日本企業がスマートフォンを作る工程をイメージしてみましょう。現代のモノ作りの経路は複雑です。

まずは、英国企業(英ARM)に知財の権利料を払い設計図を入手、機器の主要な半導体は台湾の半導体メーカー(TSMC)で製造、日本からはカメラ素子(ソニー)など周辺部品を輸送、組み立ては台湾資本の企業(台湾鴻海)が中国内で行う。
そこでできた製品は、一部は米国向けに、一部は東南アジア向けに出荷される。

これは、仮想的な製造ラインの例ですが、実際によくあるパターンのひとつです。このように、もはや、どの国の製品ともいえない製品が作られることは多くあります。

問題は、このような場合でも貿易統計では、「日本から中国へ部品の輸出」「中国から米国へ最終製品の輸出」とカウントされてしまうことです。

統計だけを見ると、日本製品の最大の輸出国は中国です。それだけを見ると、日本の製品のほとんどは中国で消費されているように見えてしまいますが、製造のために中国に移送しているだけで、最終消費者は欧米先進国や日本国内である可能性があります。

これは、古くから続く貿易統計に連続性を持たせるため、集計手法を途中で変更できない等、統計上の問題と考えてもいいでしょう。

貿易収支と現地生産の収益

それらの注意点を踏まえて、貿易収支を見てみましょう。貿易収支は、港を経由した物理的なモノの移動だけに着目した輸出入です。

2018年の日本は、自動車や自動車部品など輸送用機器で15兆円、半導体製造装置(主に韓中台へ)、エアコン、建設機器、ポンプ、エンジンなどで8兆円の貿易黒字を上げています。このように、貿易ではほぼ毎年、黒字を計上していることは知っておきましょう。トランプ大統領が日本が米国の利益を奪っていると言うのはこの黒字に対してのことです。

貿易収支は赤字、自動車や機械は毎年、20兆円以上の黒字ですが原油などエネルギーの輸入で赤字になっている状態です。せっかく製造業で稼いだ利益が燃料資源の輸入で消えている構造になっています。貿易をだけを見ればそうなります。
すでに説明したとおり、これは海外取引の一部に過ぎず、貿易は赤字にもかかわらず投資収益が黒字であることが重要です。

なお、第一次所得収支はトヨタのように海外工場で現地生産して利益(直接投資収益)を出している企業の収入から、Amazonのような外国企業が国内で得た利益をマイナス計上した差し引きです。ほか、M&Aで買った海外子会社からの収益(証券投資収益)です。これらの収益は、貿易収支ではなく第一次所得収支という別の項目に計上されます。

実態で見れば、日本でモノを作って輸出しても、現地に工場を作って現地で販売しても日本企業の利益には変わりありません。第一次所得収支と貿易収支を合算した額が実質的な海外貿易、取引での儲けといえるでしょう。純粋な輸出だけでなく現地生産での利益も合わせれば、毎年15兆円程度の黒字になっています。

実際には、さらに、これ以外に観光や輸送サービス、知的財産権での支払い、受け取りも通算しますが、これらの比重は大きくありません。


図版16 第一次所得収支
2019年版ものづくり白書(PDF版) (METI/経済産業省)

日本からの主な輸出品

もう少し細かく見ていきましょう。日本からはどのような製品をどこに輸出しているのでしょう。

図版17 輸出品金額ランキング上位
全データは筆者ページからダウンロードできる
統計表一覧(e-Stat) : 財務省貿易統計
2018年1-12月期

自動車

日本からは、自動車と半導体製造装置を筆頭に、船舶、貨物トラック、半導体、コピー複合機、産業用ポンプ、蓄電池、ほか自動車や機械の部品などを輸出していることが分かります。

日本からの最大の輸出品は輸送用機械です。貿易統計は産業分類の表現がわかりにくく、何を意味するのか解読が難しいこともありますが、トヨタなどの一般的な自動車は、輸送用機器に分類されます。
そして、自動車は、輸出額ベースで4割が米国向けとなっており、自動車において米国は最大の輸出相手国であるため、米国内の自動車産業を保護したいトランプ大統領が怒るのも理解できるでしょう。

自動車の製造には欠かせない鉄鋼も日本国内での製造が9割ですが、鉄鋼を作るための石炭は日本ではほぼ産出されないため、主に豪州から輸入しています。

半導体製造装置

半導体製造装置の輸出が第二の産業であることも知っておく必要があります。日本では、いまや半導体の完成品製造は少数であり、すでに製造の主役は台湾や韓国に移り変わりました。
しかし、半導体製造企業が使う製造装置や材料では、日本のシェアは非常に高いのです。

金塊が主要な輸出品目になっている理由

日本からの輸出額のランキング上位に「金(白金をめつきした金を含むものとし、加工してないもの、一次製品及び粉状のものに限る。)」つまりは、金塊が含まれているのは意外ではないでしょうか。日本では、金塊を生産しておらず、輸出するほど余っていないはずです。なぜ日本からの金塊輸出は多いのでしょうか。

じつは、これには、消費税の脱税と関係した社会問題が関係しています。

海外で10kgを5,000万円で買う。税関で輸入消費税8%を払わず日本国内に持ち込む。国内の貴金属商社に税込5,400万円で売る(実際には売り/買いのスプレッドに加え、出所があやしいので多少ディスカウントされる)ことにより、不正に8%の差益を得る。

もしくは、消費税を払わず5,000万円で密輸した金塊をグルになっている輸出商社が正規ルートで海外に輸出する。国から8%の消費税(400万円)を還付してもらえる。
海外に持ち出された金塊は、再び香港などを経由して日本に再輸入、消費税還付することを繰り返す。

国から見れば、本来は還付する必要のない消費税を支払っているわけですから、税金が不正に流出しているわけです。

図版18 金の密輸は必ずばれるの税関ポスター

参考
NHK クローズアップ現代
2017年5月23日(火)
金塊 闇の“錬金術”~私たちの税金が奪われる~

日経新聞
2018年の金密輸、押収量65%減 流通でも対策強化へ 財務省
2019/2/22

米国は最大のお客様

日本の輸出統計で最大の顧客となっているのは、中国(20%)、米国(19%)です。そのため、中国は米国を抜いて日本の最大の貿易パートナーなどといわれます。

しかし、冒頭で説明の通り、中国へ輸出された材料や部品が現地の日系企業の工場により組み立てられ、最終製品となり世界中へ再輸出されているという経路を考慮する必要があります。
中国向けの輸出の一部は現地での組み立てのためと考えられ、日本の真のトップ顧客、すなわち日本製品の最終消費者はいまだに米国だといえるでしょう。

OECDによる付加価値貿易指標の説明においても「日本の場合、2015年のグロスベースでは中国が最大の輸出先であったのに対し、付加価値ベースでは米国が最大の貿易パートナーとなっている」と述べています。

このように、近年では、OECDの説明のように、どこで付加価値が生み出され、最終的に誰がそれを消費しているのかを推計する、バリューチェーンの考え方が主流になっています。

モノの移動に着目した旧来型の貿易統計では、生産材料の移動が輸出入として大きくカウントされてしまい実態がわかりにくいため、その不具合を解決するための必然的な流れだといえるでしょう。

海外からの主な輸入品

図版19 輸入品金額ランキング上位
輸入も見てみましょう。海外からの輸入品にはどのようなものがあるのでしょうか。輸入品には「日本は資源が出ない」ことを理解できる品目が並んでいます。

ガソリンなどの燃料

日本の最大の輸入品は、燃やして電気や動力エネルギーを得るための化石燃料です。
アラブ諸国から原油を輸入し、国内で精製して自動車などのガソリンを作り、また、豪州から石炭とLNG(天然ガス)を輸入して発電用に燃やしています。
詳しくは、「30節 エネルギーを輸入に頼る」で説明しています。

スマートフォン

スマートフォン完成品の輸入量が多いのが近年の特徴といえるでしょう。国内でiPhoneのシェアが4割を超えることを考えると、iPhoneの工場がある中国からの輸入額が多くなっているのも理解できます。

貿易統計の輸入には、日本のエレクトロニクス企業が海外生産して輸入したものも計上されます。
たとえば、ソニー(日本市場向けXperia)などは、日本国内では生産しておらず、北京とタイで生産した機種を日本に輸入しています。
これは多くの人がイメージする「輸入」とはことなるかもしれませんが、このような取引も輸入として計上されています。

日経新聞
ソニー、中国のスマホ工場生産終了 販売減で体制見直し
2019/3/28 21:26

食料品

日本人の主食である米は、ほぼ全量を国内生産していますが、それだけでは、1億人の食事をまかなうことはできません。
アジアから魚介類、米国や豪州から肉などを輸入して日本人の食生活は成り立っています。

食料や水を過度に外国に依存すると、その供給断を国際交渉のカードとして使われることになり、戦争の際には兵糧攻めの脆弱性を抱えることになります。そのため、食糧自給率を考慮することが必要といわれています。

シンガポールのように国土が狭いために食料を栽培する場所がなく、食糧自給率が1割未満といわれる国ではさらに深刻な問題です。
シンガポールでは、この問題を避けるための工夫として、食料の輸入相手先を世界中の国に意図的に分散しています。

レアアース

金額が大きくないため統計には出てきませんが、磁性体、光ディスク、磁石、レーザーなどコンピュータ部品を作るために必須のレアアースといわれる17元素の供給が近年は話題になっています。

レアアースは中国にその1/3が埋蔵されており、の世界生産の7割ほどが中国(2019年現在)といわれています。

長期的には中国以外からの輸入経路を確立することもできなくはありませんが、足下では中国製が世界を席巻しているため、中国との対立はレアアースの供給断、ひいては、日本の部品製造ラインの停止を連想させることになります。

図版20 空撮写真 バヤンオボー鉱区は世界最大規模を誇る中国のレアアース採掘現場

写真
https://en.wikipedia.org/wiki/Bayan_Obo_Mining_District

日経新聞
レアアース禁輸 中国のジレンマ(The Economist)
The Economist
2019/6/18 2:00

典型的な加工貿易のスタイルから変化

日本は「加工貿易の国」と社会の授業で習った読者も多いと思いますが、現在の小学校では、「単純に「日本の貿易=加工貿易」とは言えない. 状況になってきている。」(教育出版 第5学年 社会科 学習指導案)と指導しているようです。

これは、今までの説明してきた通り、日本の輸入の多くは、原油ほかの燃料、スマートフォン、パソコン、食品、衣類などです。
鉄や銅などの工業原料も輸入していますが、戦後の加工貿易全盛の時代とは輸出入品目や付加価値の付け方が大きく変わっています。

たとえば、大規模な製造業では現地法人による現地生産、現地販売が主流であること、日本企業が海外製造した日本製品(ソニーのスマートフォンなど)を輸入する金額が非常に多いこと、M&Aにより海外企業を買収し、その利益を日本に環流させていること。

このような海外取引のスタイルはもはや加工貿易とはいえないのではないか。という議論です。
そもそも、加工貿易国か否かは概念的なものであり、ゼロかイチで判定するものでもありませんので、あまりこだわる必要もないでしょう。

それよりも、海外取引として実際にどのようなことが行われていて、それがどれだけの金額であり、日本の産業のなかでどれほど重要な位置づけなのかを理解することに意味があります。

日本が保護したい米農家

米国は、常日頃から米国産の農作物や牛肉などを日本に売りたいと考えています。
しかし、日本の農家から見れば、安価な米国産に押されて国産作物の価格が下がり、生活が苦しくなる。そのような連想が働きます。

このような安価な輸入品による国内市場の崩壊は、すべての作物にいえることですが、そのなかでも特に論点になっているのは米農家です。

米は日本人の主食であるため輸入に頼らず、育成し保護しなければならないというのは正しい主張でしょう。食糧の自給率はどこに国でも気にしていることです。

しかし、これが一種の建前として使われ、本音は、選挙の小選挙区で議席を取りたい。そのためには、地方の農家の票を集めなければならないからコメ農家を保護しなければならない。
このような農家への肩入れは、選挙における公然の秘密ともいえることでしょう。そのため地方は票田といわれることすらあります。日本では、東京、大阪、名古屋の三大都市圏の人口が56%を占め、都会に人が集まる社会構造になっていますが、衆議院選挙の仕組みを考えると地方を大事にしないわけにはいきません。

このように、特定の産業に対して、国が過剰な補助金を出したり、海外との競争を遮断する施策は、保護主義と呼ばれ、国際社会では自由貿易と自由なモノの流通を妨げマクロの視点で見れば良くないことといわれています。

TPPと関税

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)は、米国と日本、シンガポール、豪州などを中心として協議中の自由貿易協定です。

日本では、TPPといえば農業との兼ね合いで議論されることが多くあります。
農業も含めた自由貿易になれば、日本の米農家など農林水産業が低価格競争にさらされ被害を受ける。農家が困る事態になれば自民党は支持を失う。
それは食い止めなければならない。一般論としては、そのような自体が想定されているといえます。

なお、日本のコメの関税は778%となっており、実質的に輸入禁止の商品となっています。政府のコメ農家保護の真剣さが伝わってくる数値でしょう。これを自由化することを迫られているわけですから、日本の農業にとっては黒船の来襲です。

さらに、金融分野の自由化にまで踏み込まれれば、日本の最後の砦である個人資産1,800兆円が外資金融機関に吸い取られてしまう。むしろ、それが米国の目論む本丸である。米国が有利な条約であることに間違いない。そのように言われたこともありました。

しかし、トランプ大統領が計算したところ、TPPで最も損が出るのは米国であろう。という結論となりました。
そのため、トランプ大統領の就任直後に、米国はTPPから脱退を表明し、主役の抜けたTPP交渉は盛り上がりに欠ける内容となっています。

エネルギーを輸入に頼る

鉱物性燃料とは主に原油9兆円、液化天然ガス5兆円、石炭3兆円です。(2018年)
政府が原発を推進するのは燃料資源の輸入赤字を減らしたいため。というのが理由のひとつであることが統計から理解できます。

福島第一原子力発電所事故以前は、原子力発電の比率は3割ほどありましたが、以降は2%程度まで落ち込み、2019年現在、日本の原発はほぼ稼働していないといえます。

そのため、日本の発電は火力に頼っているのが現状です。輸入した石炭の40%(残りは鉄鋼生産用など)、天然ガスの70%は発電用として燃やされており、それらは主に豪州から輸入しています。
このように、日本の発電所は豪州から輸入した資源で成り立っているといえます。豪州は政治的にも地理的にも安定した国であるため、ひとまずのところは安心できています。

日本の発電用燃料の内訳

原油は何に使われているのでしょうか。火力発電所のイメージとはことなり、原油は発電用としては燃やしません。原油は輸入価格が高く、他に安価に発電用として燃やせる資源があるなかで発電用に使うのはもったいないためです。
そのため、輸入した原油は精製され自動車用ガソリンなどとして使われています。

原油は、サウジアラビアほかアラブ圏からの輸入に頼りますが、価格のボラティリティが高いことと、輸入経路(ホルムズ海峡)には、金融市場では地政学的リスクと呼ばれる軍事攻撃リスクがあることが難点です。過去に日本の原油タンカーも攻撃を受けています。

このようなエネルギー供給の問題は非常に重要ですが、金融市場ではあまり話題になることが多くないため、本書でも概要だけにとどめておきたいと思います。

参考
ホルムズ海峡でタンカー攻撃、米は背後にイランと非難 原油急騰
2019年6月14日
ロイター

参考
環境省 我が国のエネルギーのフロー(未定稿)
財務省関税局 品目別輸入額の推移(年ベース)