2021/06/26

玉川陽介 日本経済解説(中小企業とスタートアップ)

中小企業とスタートアップ

日本の大企業が貿易や現地生産で外貨を稼ぎ、同時に内需も作っていることを説明してきました。
しかし、日本の産業を形成しているのは大企業だけではありません。内需と外需に依存関係があるのと同じように、日本人の6割が働いている中小企業なくしては大企業も成り立ちません。

都心で働いている人には、地方の中小零細企業の実態はわかりにくいと思います。しかし、日本全体で見れば、東京の高層ビルの大企業群とは、まったくことなる形態、働き方のほうが多いことを知っておきましょう。

地方経済や中小企業の実態を理解することは、政府の予算分配、社会保障、そして、政治と選挙を理解するためにも必要です。

地方の中小企業

日本の中小企業とひとことでいっても、いろいろな企業があります。
わかりやすく、その実態をイメージするならば、日本経済における中小企業とは、地方の建設業、製造業の下請け工場、地元にしかない小規模な駅前百貨店やチェーン店と理解すればいいでしょう。

従業員50人未満の中小零細企業に勤務または自営する人の割合は約6割、同300人以上の中堅または大企業に勤務する人は日本全体では1割だけです。

東京の大手町や丸の内の高層ビルでスーツを着て働く人たちの姿は、日本全体で見れば、かなり偏ったものであることが分かります。
一方、地方の特徴としては、大企業が少なく仕事がないことが挙げられます。これは日本経済の問題でもあります。

本章では、いくつかの具体的な中小企業について見ていきましょう。

地方の建設業

地方でも自宅を新築したい、リフォームしたい。という需要はありますので、建築の仕事にはそれなりの需要はあります。しかし、建設業者の数は非常に多く、それだけでは仕事が足りません。そのため、国や地方自治体が公共土木工事などを企画して地方に仕事を作っていることが問題になっています。

地方の建設業についてはX章で詳しく説明しています。

製造業の下請け工場

街には多くの小規模な工場があります。そのなかには、大企業が完成品を作るための部品や金型を提供している中小企業もあります。日本の中小企業の代表例としては、特に、自動車やカメラなどの精密部品を作るための金型制作が例に挙がることが多いでしょう。

金型は、わかりやすくいえば、たい焼きを作るときの鯛の形をした金属板です。ただし、たい焼きとはことなり、部品製造用の金型は非常に精緻に作らなければなりません。
そして、このような金型技術は、日本の中小企業が世界に誇る職人技などといわれています。
そのため、経産省の産業パンフレットなどに、事例として金型工場が取り上げられるのは定番となっています。

しかし、近年(2015-2018)では、中国の製造業者が日本でリストラされた金型技術者を厚遇で迎え、技術を中国現地企業に伝授させ、その後に解雇するなどの問題も発生しています。よくいえば発展途上国への技術提供ですが、中小企業の職人が使い捨てられ、技術が競合国に盗まれているともいえます。

地方の零細企業

零細企業の仕事

図版21 中小企業白書2018より 数値で見る零細企業
それよりもさらに小さい、零細企業は、社長ひとり、または家族や知人で営んでいる地方のリフォーム屋さん、昭和な雰囲気の食堂、個人トラックの配送員などをイメージすると分かりやすいと思います。

零細企業の多くは自社製品を持たず、大企業が製品化したものを販売、現地環境へあてはめるための現場訪問やパッケージ品の微調整、クレーム対応など、自動化できない部分を担っています。

大企業が、正規代理店網を構築して、これらの役務の仕事を中小零細企業に委託するのは特徴的な販売手法といえるでしょう。個人商店などに自社製品の扱い方を教え、知識試験に合格した商店に対して製品の販売からアフターサポートまでを委託するわけです。たとえば、「街のでんきやさん」パナソニックショップなどは有名な事例です。このように、零細企業は、大企業製品の窓口となる仕事も多くこなしています。

130万の企業者は会社が家族に給料を払うと会社の儲けはほぼゼロの準個人経営であり経営は楽ではないとされています。

中小企業の社会保険加入率

零細規模の事業者では、雇用者の義務である厚生年金への加入がされていないケースも多くありました。

ここ数年は年金事務所の督促が強くなったこともあり加入率は9割程度まで改善傾向ですが、10年ほど前(2009)は4割ほどの零細企業が社保に未加入でした。多くの零細企業が違法営業の状態でしたが、長らく放置されていたように思います。社長の意識が昔ながらで不勉強であること、資金がないことなどから、法定義務を果たせていないといえます。

※加入率推計は筆者による税理士へのヒアリング。国交省「最近の社会保険の加入状況等」でも平成23年の社保加入は人数ベースで6割程度とされ、筆者推計と概ね一致する。

昭和の社長の高齢化

中小企業の経営者は66歳前後が多く、高齢化が進んでいるため、倒産よりも廃業が多いなどはよくいわれ、次世代にどのように事業を承継するかが焦点となっています。

そこで、政府は、中小企業の相続に税の繰り延べ(事業承継税制)を提供するなど高齢化した中小企業の世代交代を支援しています。地元の名店や産業のサプライ・チェーンを構成する工場など、地元の中小企業が途絶えないように振興しているわけです。

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H28/h28/html/b2_6_2_1.html

都心部の中小企業

役務の仕事

筆者は、以前は東京で従業員数人の受託情報処理の仕事を経営していました。東京の中小企業のひとつといえます。その経験を踏まえていえば、東京の零細企業は、東京を拠点とする大企業や国の仕事の手伝い、役務の仕事をすることが多いように思います。

大企業の東京本社は、工場や金型ではなく、マーケティングやITシステムなどを担いますので、それを手助けするためのウェブ制作、経理、コールセンターのようなデスクワークやイベント運営などが東京ではよくある仕事です。


図版22 中小企業の事務所の例。
2005年当時の筆者事務所。賃料20万円程度。会社の床で寝る日もありでQoLは低いが普通にやっていれば社長の年収が1,000万円を下回ることはない。ただし将来の保証はなく一寸先は闇であったため、消費や休暇を楽しむ余裕はない。

中小企業の労働環境

中小企業の売上や利益は先が約束されたものではありません。また、少数の大企業に依存する収益構造になっていることも多いため、主要取引先に見放されることは死活問題です。そのため、契約条件に反していても顧客のいいなりとなりやすく、立場の悪い取引になることも少なくありません。

そのしわ寄せは従業員にも及びます。会社の利益が少ないため、昇級や賞与の機会も少なく、退職金、福利厚生はありません。休むと代理がいないため有給も使えません。新規事業も増えないため、ジョブローテーションがなく、毎年、同じ業務の繰り返しとなるためスキルアップの機会が限られ飽きてしまいます。

このような状況に陥っている中小企業は多いため、離職率は大企業に比べて高くなるのも理解できます。

スタートアップ企業の目指すもの

このような中小零細企業とは一線を画する若き創業者たち。ベンチャー企業、スタートアップ企業は何を目指しているのでしょうか。

モバイルアプリを作って上場を目指す

スタートアップ企業と中小零細企業の違いは明確に決まっていません。
しかし、ひとつの違いを挙げるならば、中小企業の基本を大企業の下請け、人月単価などの役務だとするならば、スタートアップ企業はインターネット上に自社サービスを持ち、多人数に展開する自主性だといえるでしょう。

創業者の多くは都会の優秀な若者です。大卒後、20代は大企業で働き、相応の経験や人脈、共同創業者を得たところで独立します。業種としては、広告、人と人とのマッチング、プラットフォーム(窓口サイトと取引市場)、モバイルアプリ開発などが多くを占めます。彼らの武器は、当期利益よりもユーザー数と将来性だといえるでしょう。

現在の利益水準を永年安定させたいと思っている経営者は少なく、赤字が続く会社も少なくありません。それでも知名度を向上させ、多ければ数十万アカウントに至るユーザーをさらに増やし、市場を独占し、将来的にはそれらのユーザーに課金して利益を上げたいと思っています。

数多くあるニッチなビジネス分野のなかで、5~10年程度の短期で勝者総取りができる市場を探しているともいわれます。しかし、ニッチ分野はニッチゆえに当たるか外れるかは神のみぞ知るです。そのリスクヘッジとして、複数のニッチ分野に対して、薄く広く釣り糸を垂らす事業展開をするスタートアップ企業もあります。

最終的には、そのユニークな市場性を武器にして、上場したいと考える経営者がほとんどでしょう。悪くても、どこかの大企業にM&Aで会社を売却するプラン(M&A出口)は頭の片隅にあるはずです。しかし、短期間で急成長し、上場による持ち株の売却、巨額の転売益を獲得することは、批判の対象となることもありました。短絡的に上場だけを目標とする経営理念を揶揄して上場ゴールなどとも呼ばれました。

このような、スタートアップ企業の先駆けは、2000年ITバブルの頃に渋谷ビットバレーと呼ばれた渋谷の企業群だといえるでしょう。ディー・エヌ・エー(DeNA)、サイバーエージェント、GMOインターネットなどのネット企業が代表格です。ソフトバンクや楽天は、そのさらに前の世代です。

企業側の立場で見れば、このような説明になりますが、投資する側から見た立場では、これらの企業はプライベート・エクイティ(X章で説明)と呼ばれています。プライベートとはパブリック(上場している)の対義語で非上場を意味します。

理工系の研究開発者たち

製薬、IoT、新エネルギー、電池など理工系の創業も、多くはありませんが日本にも存在します。

しかし、これらの基礎研究や研究開発は、すぐに成果が出ないため投資が入りにくいこと、世界の大手と研究が競合することなどから、目立った成果が出にくいのは課題といえるでしょう。イスラエルや米国などブームとなっているAI、自動運転、人工肉の研究、製品化などに比べると見劣りは避けられません。

国や大学など、予算と技術が豊富な機関と(産官学)連携する研究開発スタートアップも少なく、国の支援が機能しているとはいいにくい状況です。無名の個人が公的研究機関に正面から入り込むのは困難という、日本独特の大組織の敷居の高さも関係しているでしょう。

そのため、スタートアップ企業は、東京大学出身者、大学教授、メガバンク役員OBなどを経営陣や顧問に入れて、経営陣の正当性をアピールすることも少なくありません。大組織から優秀なスタートアップ企業と認識され取引をするための形作りともいえます。

深読みコラム 昭和の会社と令和の会社

ブラック企業の容認

時代は変わり、令和の社会では昭和気質のブラック企業は悪だと認識されるようになりました。景気も良くなり、その数は少なくなってきたように思います。
逆にいえば、平成後期までは違法なブラック企業も容認されていたのが実情です。

ブラック企業が容認されてきた理由としては、
長らく政権を担ってきた自民党が労働者側よりも経営者側、経済界の立場であったといえること
・時代背景的にライフワークバランスなどの概念が希薄であったこと
が挙げられます。ブラック企業が生まれた素地としては、何より高度経済成長を掲げた自民党政権が労働環境よりも企業活動を優先してきたことが挙げられるでしょう。

ブラック企業の極端な例としては、先物取引やワンルームマンションの営業会社などが思い当たります。
腕にガムテープで受話器を巻き付け、一日中、テレアポの電話をかけ続けさせる。地方の新卒を採用して社宅への居住を必須とする。それにより、退職時の引っ越しコストを重いものとさせて引き留める。さらに、飲み会などで散財させ貯金をさせないことにより、引っ越し資金を貯めさせない。毎日が忙しすぎて転職を考える暇がない。

残業代を払わないブラック企業からすれば、新卒の自給はアルバイトよりも単価が安いため都合がいいのです。現代日本とは思えぬ労働環境ですが、このような職場は実際に存在していました。比較対象を持たない地方の新卒者は、それがおかしいことに気付くのが遅れ、搾取されていたといえます。

このようなブラック企業が容認されてきた背景としては、不況が続いたため、いい仕事を見つけることが難しく、労働者の立場が弱かったことが挙げられます。平成不況の時代には、採用コストは低く、転職によるスイッチングコストの多くは労働者の負担でした。

また、「3年は勤め上げないと忍耐力を疑われ職歴が汚れる」という、転職市場の暗黙のルールもブラック企業からの脱出をしにくいものにしていた要因だといえます。

また、労働基準監督署の機能が弱く、残業代未払いや保険未加入など労働者に対しての搾取ともいえる不法行為にも大きな罰則がなく「訴えられてから払っても間に合う」こと、零細企業者は儲かっていないから、それを払えば会社は潰れてしまう。労働者だけでなく零細企業も弱者である。という意識のもと容認されたことが関係しています。実際、法律通りの残業代や有給を支給すれば経営の継続に支障が出る中小企業は少なくないでしょう。

昭和の社風

いまだに散見される昭和の社風についても見てみましょう。

8時台の早い出社。出社して最初の仕事は社長室に挨拶に行くこと。その後に朝礼がある。電話番や清掃は若手女性の仕事と決まっている。業務でコンピュータは使うものの、Excelを方眼紙代わりにして帳票印刷をするなど事務機器としての利用に過ぎず、コピー、ペーストを繰り返すなど非効率。手書き書類も多い。

非効率性に加えて残業賞賛文化もあり、社員の帰宅は遅いが残業代は出ない。定時で帰ると早く帰っていると見なされる。業務後の飲み会は強制参加の社風。賞与の支給にも明確な既定はなくワンマン社長の裁量により支給される。賞与とは名ばかりで実質的に残業代の後払いの役割である。

賞与は社長が手渡し。目上から目下に金銭を給わることを理解させる儀式を兼ねており、社員の位置づけは、さながら会社に飼われる召使いのようであり「社畜」といわれる。年賀状の印刷で年末も残業。社員が休日出勤して社長がゴルフに行くための運転手をやっている。直接的な解雇はしないが、窓際化して嫌がらせを続けるなど、自ら退職をするように促す。

会議は報告や連絡だけのこともある。議論がされることは多くなく、「持ち帰って検討します」などその場で何かが決まることはない。

昭和を代表する中小企業の悪習をまとめればこのようなものです。社長が高齢なこともあり、廃業や世代交代まで社風は変わることはないでしょう。

令和の社風

スタートアップ企業に代表される令和の会社はどのような働き方でしょうか。

会社のデザインは、あえてホテルのような豪華さは避け、スターバックスのようなシンプルでモダンなデザインを採用する。スーツを着ても意味がないからという理由で全員私服で出社する。
MacBookを利用し、フリーアドレス、リモートワークが前提。電話はせずメッセージングアプリで会話をし、もはやFAXは持っていない。主要メンバーやソフト開発従業者は必ずしも従業員としての契約ではないこともある。起業家向けのコワーキングスペースを仕事の場、人脈形成の場として使うこともある。ITを駆使した先進的な仕事のやり方。

しかし、孫正義氏は、このような日本のスタートアップ企業の成長性には懐疑的なようです。同氏はこれらの企業には賭けていません。日本のスタートアップの課題は、世界を席巻するサービスを生み出すユニコーン企業を増やすことでしょう。通常、ユニコーンとは時価総額1,000億円以上の大型未上場企業のことを指します。

【コラム】孫正義氏も投資せぬ日本、ユニコーン増やせるか
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-07-05/PU5EOB6S972901
2019年7月5日 ブルームバーグ

反社会的勢力

反社会的勢力も経済活動に参加しています。昭和バブル期には金融機関と結託して不正に融資を受け、その多くが不良債権化しました。バブル崩壊局面では、金融機関の取り立てに割って入り、融資金が回収困難となる原因となりました。

現在では、暴力団対策法の効果もあり、昭和の時代ほどの勢いはありませんが、暴力団は根絶されたわけではありません。反社会的勢力と経済について少しだけ知っておきましょう。

反社会的勢力の仕事

「ヤクザ」は世界的にも有名で「Fortune 5: The Biggest Organized Crime Groups in the World」によれば
日本の指定暴力団は、世界第二位の犯罪組織であり7,000億円の収入があるとしています。この収入額が正しければニコンやローソンの売上げに匹敵する大規模な組織だといえます。

彼らは経済社会においてどのような活動をしているのでしょう。映画「マルサの女2」でも描かれている通り、昭和バブル期の暴力団の仕事は、地上げでした。
古いマンションの所有者を立ち退かせて古ビルを解体し、近隣の土地と一体にして大きな開発用地にまとめれば、土地の価値は何倍にも跳ね上がりました。この利益のために、居住者を暴力的な手段で立ち退きさせることが問題となりました。そして、このような仕入れルートが潔白ではない土地に不動産大手が高層マンションを建てることもありました。

現在では、地上げの対象になる土地が少ないこともあり、反社会的勢力が地上げに関わることは多くありません。それに代わり、投資詐欺、脅迫、風俗店、麻薬、振り込め詐欺、インターネット上や繁華街での非合法カジノ開帳などが主な収入源となっています。

このほか、反社会的勢力は、企業舎弟やフロント企業などといわれる企業経営もしています。これらの企業は一見では一般企業と同じような活動をしていますが、無許可営業や不法投棄、不法就労、密漁など違反行為をすることにより低コスト化してビジネスを成立させていることがあります。また、日本人だけでなく在日アジア人が構成メンバーとなっていることも多くあります。

反社会的勢力の排除

現在は、ほとんどの大企業や金融機関が、取引開始に際して「反社会的勢力の排除に関する誓約書」の提出を要求します。反社会的勢力ではないこと、また、同勢力とは関わらないことを誓約する書類です。

また、取引先に問題がないかを確認するため、金融機関は、預金保険機構を通じて警察庁の反社会的勢力データベースを照合できます。

このため、たとえば、不動産大手では、反社会的勢力が関係していると思われる土地を買ってマンション開発をしたいと思った場合でも、直接の取引はできません。しかし、あきらめるには大きすぎる取引の場合、あいだに反社会的勢力との仲介役となる一般個人事務所をはさみ、取引を浄化して、大手の反社会排除規約に抵触しないよう「工夫」することもあるようです。

さらに、近年では、半グレと呼ばれる元暴走族などのグルーブが、ヤミ金、振り込め詐欺などを率いていることも新たな脅威となっています。日本経済のなかで無視できない存在として頭の片隅に入れておくべきかもしれません。

深読みコラム 日本の法制度は公平で安心なの?

日本の法律は世界に誇れる公平公正な仕組みなのでしょうか。
企業経営者や不動産オーナーは常に訴訟リスクにさらされ、また、トラブル解決のために日本の法律を頼ることになります。

法律のできの良さはビジネス、投資、生活のすべてに影響を及ぼすため、国家の提供する無形のインフラといえます。日本の法律にはどのような特徴があり、どのように運用されているのかを知っておきましょう。なお、筆者は法律家ではありません。ビジネスや投資で法律を利用するユーザーとしての見地から私見を述べます。

司法手続きには時間がかかる

隣地から木の枝が越境してきているから切ってほしい。というような稚拙な係争でも、隣地が話を聞いてくれないなどスムーズにいかない場合、判決や強制執行に1~2年かかることもよくあります。このような小口の事案では、弁護士費用も取り立て額の数割となる計算です。たとえば、2百万円程度の係争で60万円の弁護士費用とすれば、司法システムを利用するのはコスト割れで困難です。(弁護士費用を相手に請求することはできません)

その上、裁判官が多くの事件を抱えていて、早く終わらせた方が上司からの評価が高いシステムであることから、裁判官も言いがかりだと思っていても、被告が折れてくれて早く終われば問題なし。という進行になることも少なくありません。

法務省も、さすがにこれでは非効率であることは認識しており、ビデオ会議やチャットで連絡をして裁判を迅速化するなど改革に着手しています。

民事は手を挙げた側が強い

損害賠償の申し立てに関しては、申し立てれば和解により幾分かでも取れるケースが多く、言いがかり的な申し立ても通りやすい環境。これも、最後まで戦い通すと時間がかかりすぎるので、ビジネスの合理性だけで考えると払ってしまった方がいい。という判断になることが少なくないからです。いわゆる、いいがかりが通りやすい環境にあるといえます。

刑事事件と人権

本書は、刑事についてはカバー範囲外ですので簡単にだけふれておきましょう。
ひとことでいえば、日本は先進国にありながら、罪人に対する人権意識は低いと言わざるを得ません。日本の刑事司法で、人権侵害としてよく聞かれる話題は、代用監獄、人質司法、別件逮捕、警察に検挙されると99%が有罪であり推定無罪とは言いがたい処遇。東京入国管理局に収容されている外国人がハンガーストライキを起こして抗議するなど収容者に対する処遇は悪いといえます。

政治的な理由での逮捕

ビジネス上でも注意するべき点があります。近年では、被害者の会などを結成し、集団として弁護士を立てて民事での損害賠償を追及するとともに、経営陣の何らかの違反行為を探し出して刑事告訴するケースも増えてきました。
警察も、形式上、正規の手続きが申請されれば動かざるを得ないこと、被害人数が多く社会的なインパクトが強ければ無視できないこと、そこに政治家など有力者が後押しを加えれば無視できないといえるでしょう。通常ならば、その程度で逮捕されることはなかろうという細かな違反行為でも調査が及ぶこともあります。

日産自動車のカルロス・ゴーン氏の金融商品取引法違反、厚生労働省官僚の村木厚子氏の冤罪逮捕など、政治的な理由で警察が動くこともあります。海外からは不当逮捕だと非難されます。