2021/06/29

玉川陽介 日本経済解説(地方の経済と産業)

地方経済

地方経済と農林水産業は経済合理性だけでは片付かない難しさがあります。食料生産は利益率が低いからといってシンガポールのように食料や水を輸入に頼れば、輸入国との係争時に弱い立場に追い込まれ、有事の際に脆弱性となります。

その貴重な食料を生産し、自給率を支えているのが地方です。しかし、地方は、東京からの支援なしでは経済が成り立たない。少子高齢化が進行している。など多くの問題をかかえています。

地方経済の規模

経済的な視点で見る地方の姿

筆者、日本の街を、大きく4つの地域に分けて見ています。都心、郊外、地方の中心地、地方の田舎です。
都心は、東京や大阪などバイク便がたくさん走っている地域、郊外はそれに続く住宅街、地方の中心地は新幹線の駅前など、地方の田舎は、空撮地図を見たときに緑ばかりで田畑のほうが多いエリアです。

地方経済のGDP比


図版23 県別GDP 筆者作成
内閣府経済社会総合研究所 平成 27 年度県民経済計算を元に筆者作成

地方経済を数値で見てみましょう。図版23を見ると、人口とGDPともに7割が主要14県に集中していることがわかります。この数値からは地方経済の規模は3割程度といえるでしょう。やはり工業地帯の自動車などの基幹産業、都会の内需が雇用と利益を生み出していることがわかります。一方、地方は農林水産業や零細な自営業の拠点です。

地方経済の赤字化

本書では、図版23から主要14県を除いた残り33県を地方と定義しましょう。表のGDP比率を見るだけでも、地方のほとんどは、県単体では収支が成り立たないことが容易に推測できます。

そのため、財政赤字となる地方自治体には、国が地方交付税交付金という赤字補填のための資金を支給しています。構図的には、都会の大企業や給与所得者が稼いだお金が地方の維持に充てられていることになります。そして、地方財政は、この支援なしには成立しません。そのため、多くの地方都市は、その収入だけでは自活できない、本来は経済的には住めない場所であるととらえることもできます。

一方、地方は、国の維持に不可欠な農業など採算性の悪い部門を担っており、都会と役割分担をしている。独立採算を要求するのがおかしい。予算を切り詰めて、地方の野山を荒廃させる気か。という主張もあるでしょう。

このように、ひとつの事象でもまったく正反対に捉えることができます。本心では理解していても自分に不利な議論では、あえて無理な主張をする人もいて、話がまとまらず、どちらにも進まないのは、日本でよくある展開です。

さて、この問題に関しての国の考え方としては、前者の考え方が強いといえるでしょう。国は、地方創生といいつつも、実際には地方はコストセンターであるという認識でしょう。これに至る経緯を振り返って見ましょう。

ユニバーサルサービス

昭和の高度経済成長期、国の方針は、過疎地のぽつり一軒家でも大都会にも、等しく日本品質のインフラやサービスを提供することであったといえます。当時は、結果平等を重んじた社会的主義な風土が強かったことも関係しているでしょう。

そのため、東京と大阪では電話を整備するが、へき地の人は圏外とする。という運用を認めませんでした。昭和の時代は、田舎を圏外にすることを認めない、ユニバーサルサービスが基本政策であったといえます。

この政策により、地方のへき地にも、電気、水道、電話だけでなく、放送局、宅配便、小学校、公立病院などを配置してきました。高速道路や橋もたくさん整備しました。
それにより、地方でも東京なみの暮らし、といえば大げさですが、東京にしかない公共サービスは存在しないといっていいでしょう。

地方は、ユニバーサルサービスにより快適に住めるようになりました。めでたし。めでたし。そう締めくくりたいところですが、じつは、これにはとてつもないお金がかかっています。


図版24 僻地にある電柱の終着点

10世帯しかない山奥まで水道や電線を引いてきて、定期メンテを行い、壊れたらすぐに回復できる体制を整えるには、10世帯からの利用収入だけでは、まったく採算が合わないわけです。
しかも、当時のNTT電話回線網などは、交換機が落ちた記憶がないほどの高可用性を誇り、地方網にも手抜きがありませんでした。その設備費用は高額であったことでしょう。

過疎地の赤字は、何らかの方法で埋める必要があります。少ないインフラ投資で大人数をカバーして高採算が見込める、人口密集地区の利用料金に上乗せするか、税金で埋めるしかないでしょう。逆にいえば、公共インフラがユニバーサルサービスをやめ、Uber Eatsのような都心限定の展開が許されるならば、利用料金は今よりも安価に収まる計算です。

ユニバーサルサービス廃止に対する理解は政府内でも進んでおり、郵便の土曜配達廃止、過疎地にはNTT固定回線を敷設しないことなどが決まっています。

コンパクトシティ構想

このようなユニバーサルサービスを続けて地域格差をなくし、平等性を維持していきたいところですが、地方にも国にもお金がありません。

そのため、国交省はコンパクトシティ構想として、あまりにも維持費がかかる僻地の村は廃村にして駅前や地域の拠点的な地区に集結させることを推進しています。しかし、冒頭に説明したように、地方の車社会に合わせて幹線道路沿いの広範囲に既存の街並が広がっていることあり、一カ所に人を集めるのは簡単ではないようです。

地方自治体の管理コスト削減

地方の維持費削減のために、道州制が提案されるのも理解できると思います。道州制は各都道府を超えた広域の地域管理体制を構築して行政の効率化を目指すものです。

つまりは、赤字の県をひとまとめにしてシステムの共通化、規模の経済化を推進して、効率化を図りたいわけです。
しかし、地方から見れば、愛着のある地元の管理体制、そして何より道州の長という新しいボスがやってくることへの抵抗は強く、コスト削減への道は険しいものとなっています。

これが強行できないのは、選挙で地方票を集めなければならないことも影響しているでしょう。地方の人が反対する政策は選挙のことを考えると強行しにくいわけです。

そして、これを見れば、盛んにいわれている構造改革の「構造」が何を意味するか理解できるでしょう。

地方では、人口密度が低いためユニバーサルサービスの維持費が高く、高齢者が多いため払う人よりももらう人が多く、また、民需がないため、公共土木や公務員などの官需で生計を立てる人が多いので経済的には自立できていないのです。

その赤字を、東京をはじめとした大都市の大企業の利益と従業員から徴収する税金で支えているのが東京と地方の関係性です。このような、東京が地方を支える構造を変えるのが構造改革のひとつの意味合いだといえます。

参考
日経新聞
地方創生相、道州制「国民の理解進んでいない」地方創生の改革で
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL07H2J_X01C14A0000000/
2014/10/7付

プライベート・ファイナンス・イニシアチブ

お金がない地方も、スキームの工夫により資金を集め、事業を進めることに成功している例もあります。
PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)は、公共事業の初期投資が不要となる新しいプロジェクトの進め方です。

新しい公共施設を作りたいが街にお金がない。
そのような場合、街は、「にぎわい創出エリア」などの名目で再開発地区を指定します。その後、域内に、市民体育館の建設、市営施設の再生などいくつかの企画を立てます。

その後、それを設計、建設、長期運用まで、一括で請け負ってくれる民間事業者を入札などで探します。すべての費用は民間が負担し、運営までやってくれるわけです。それに対して、街は、毎年、利用料を支払うことにより、初期投資を抑えて建設プロジェクトを進められます。公共施設を自前で持たず長期レンタルするような仕組みだといえます。

ホテルチェーンの東横インは、自らがホテル建設をすることなく、地主に指定の仕様でホテルの建物を作らせ、それを長期契約で賃借する戦略が有名ですが、それと同じ発想です。

地方の産業

地方経済を見る前に、再び、日本全体の統計を見てみましょう。ここからも地方経済の実情を垣間見ることができます。

日本で仕事をしている人は6600万人、65歳以下の人が約9割です。つまり、65歳以上の人はあまり仕事の現場にはいません。働いている高齢者が少ないことも知っておきましょう。働いていないということは、税、保険、年金を受け取る側ですので、国からすればお金がかかるわけです。地方には、そのような受け取る側の高齢者が多くいます。もちろん、それは悪いわけではなく、むしろ、老後の手当が十分でない国の方が悪いともいえます。

しかし、高齢者を支えるための費用は日本の財政圧迫の直接的な原因になっているため、国は働いていない高齢者にも働いてもらい、もらう側から払う側に回ってほしいと考えています。定年延長議論などはこのような労働人口構成が根拠となっています。

地方に多い職業

地方にはどのような産業があり、どのような人が働いているのでしょうか。
地方33県をひとくくりにして見て統計値を読んでみましょう。
地方では、介護、病院、土木工事、飲食と小売りなどお店、学校と公務員などに従事する人が多くなっています。都会と比べると、トラック運送業、特別養護老人ホーム、なども目立ちます。

図版25 細かい内訳表筆者集計
出典:をもとに筆者作成
※統計の都合上、個人の農林水産業を除く

高齢者介護の人手不足

改めて仕事の内容を見てみると、高齢者や人手不足など日本の社会問題を示唆する構成になっているのが理解できます。人数で見れば、老人介護で働く人が多いわけですから、老人介護やシニア産業を日本の主要産業にして内需を拡大すればいいのでしょうか。

じつは、世界を見渡せば、マレーシアやフィリピンのように、諸外国から退職した富裕な高齢者を受け入れ、介護役務を外貨獲得のための産業として確立している国もあります。しかし、日本は今のところはその道を選ぶ予定はなさそうです。

むしろ、地方では、介護される高齢者が多い一方、若者不足で介護士が不足している状況が続き、外国人介護士を招き入れています。それに対して、国が多くの補助金を出している状況です。そのため、現在の介護は産業というよりも、高齢者ケアのために外国人も動員して、お金を払っている側だといえます。

地方の建設業

地方には建設業が多いことも特徴です。建設業は土建業ともいわれています。

ところで、東京で数の多いものの代名詞といえばコンビニです。小さな路地に2軒並んでいるなど激戦を繰り広げており、全国に6万軒弱の店舗があります。それよりも多いといわれる歯科医は7万件、美容室は37万件です。それほど多くの美容室が必要なのかと思わざるを得ませんが、駅前に美容院のない街はありません。それらの店舗数と比べると建設業がいかに多いのか分かります。建設業はさらに多く43万件もあり、そのほとんどが地方の小さな会社です。

企業数が多くても、需供が一致して経済活動が最適化されていれば問題はありません。地方で戸建て建設などの民需が多ければそれは成り立ちます。しかし、高度経済成長期以降は地方開発が終わり、地方では仕事がなくなり建設業が余っており供給過剰の状態です。

そのため、建設業の公共工事依存が続いているのが問題です。仕事のない建設業でも食べて行かれるように、地方では公共工事を行って国が仕事を作っているわけです。そのため、全国平均では公共工事比率は4割ですが、北海道、四国など民需が少ない地区は、5~6割が公共工事となっています(震災の影響が強い東北も公共比率は高い)


図版26 高知の津波から避難する施設の写真
地方の公共工事の例 津波が来たときに緊急避難するための高台(高知県)
筆者撮影

図版27 公共工事比率の図

地方経済が建設業、すなわち公共工事依存なのは、日本経済の最大の問題のひとつです。しかし、これをやめてしまえば地方に仕事がなくなり、人が住めなくなってしまいます。仕事のなくなった地方を捨て若者が街へ引っ越し、地方の過疎化が進む。高齢者を支える人がいなくなり、町村は荒廃し、地方選挙で勝てなくなる。このようなシナリオが容易に思い浮かぶため、地方の産業構造を変えるには至っていません。

ここで理想論をいえば、この問題を解決するには、建設業に代えて、地方で地域性を生かした新しい仕事を作ることが最適です。

徳島県上勝町では、80歳を超える高齢者の仕事兼生きがい作りとして、きれいなモミジなどの葉を山で拾い集め、刺身などの装飾品として製品化する企業(株式会社いろどり)が成功事例として知られています。しかし、なかなか後続の成功事例は現れていないのが現実です。

建設業者の談合と丸投げ

建設業界で問題となっている有名な業界構造についても知っておきましょう。「ゼネコン談合」という言葉は業界外の人でも聞いたことがあるでしょう。ゼネコンとは、General Contractorの意味で総合建設業です。一般的に大手ゼネコンとは、鹿島建設、清水建設、大成建設、大林組、竹中工務店を指し、この5社で国内建設工事のシェア1割超とされています。国の大規模な工事は、主にこれらの業者のいずれかが受注すると考えればいいでしょう。

しかし、そこに談合が発生し、競争入札による低価格化を阻み、非効率が続いていると指摘されているのが問題です。じつは、民間だけでなく、国の発注の仕組みの非効率性も問題の一端といわれています。

図版28 談合の写真

さらに、元請けたるゼネコンが仕事を受託したあとにも問題があります。ゼネコンがほとんど仕事をせず、実際の仕事は下請け会社にやらせる「丸投げ」といわれる仕事のやり方です。現在では、ひどい丸投げは建設業法で禁止されています。しかし、いまだに仕事は階層別に分かれており、上流工程は設計や業務管理で高い利益率、再委託先に行けば行くほど単価は安く、仕事はきつくなるのが一般的です。

このような、元請け、下請け、孫請けといわれる再委託のヒエラルキーは建築土木業界ではよく知られた問題です。近年では、情報処理や受託システム開発もこれと同じ、上流、下流の構造となっていることが指摘されています。